【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈1〉/〈2〉からのつづき
1.はじめに
改悪入管法で創設されることになっている監理措置制度についての記事は、3回目となる今回で最後です。この制度の最大の問題点は、「監理人」として入管が選定した人間に、「被監理者」(監理措置を受けて収容を解かれた人)の生活・行動を監視させるというところにあります。「監理人」には入管への届出・報告義務が課され、報告をおこたると罰則の対象になります。
今回の記事では、その「監理人」について、新しい入管法が条文でどう規定しているのか、というところからみていきます。
2.「監理人」について
改定法で「監理人」について規定しているのは、監理措置Aは第44条の3の各項、監理措置Bは第52条の3の各項です。この「監理人」の規定の内容は、監理措置Aと監理措置Bとでほぼ同じです。なので、ここでは基本的には監理措置Bのほうの条文だけをみていくことにします。
(1)監理人の選定
52条の3第1項(監理措置B)
「監理人は、次項から第五項までに規定する監理人の責務を理解し、当該被監理者の監理人となることを承諾している者であつて、その任務遂行の能力を考慮して適当と認められる者の中から、監理措置決定をする主任審査官が選定するものとする。」
監理人を選定するのは主任審査官(各地方入管局の局長など)です。
(2)監理人の責務
上でみた52条の3第1項に書かれているように、同条の第2項から第5項で「監理人の責務」なるものが規定されています*1。
さて、現行の仮放免制度においては、入管局は仮放免を許可するにあたって、多くの場合、身元保証人をたてることを求めてきます。仮放免される人の家族・親族や友人のほか、支援者や弁護士が身元保証人になっています。監理措置制度における「監理人」は、この仮放免の保証人と一見似ているようにみえますが、じつはまったく異なります。
仮放免の保証人は、「下記の者が仮放免許可された上は、法令を遵守する(させる)とともに、仮放免に付された従う(従わせる)ことを誓約します」と書かれた書面に署名を求められます。しかし、そもそも入管法上、「保証人」についての規定は何もありません。
これに対し、監理措置制度における監理人には、入管法で「監理人の責務」なるものが規定されているわけです。まずこの点が、監理措置が仮放免と大きく異なる点です。
では、その「責務」の内容をひとつひとつみていきましょう。
第52条の3第2項(監理措置B)
「監理人は、自己が監理する被監理者による出頭の確保その他監理措置条件の遵守の確保のために必要な範囲内において、当該被監理者の生活状況の把握並びに当該被監理者に対する指導及び監督を行うものとする。」
ここが監理措置制度の問題の核心部分です。監理措置とは、監理人に被監理者の生活状況を監視し把握させ、監理措置条件に違反していないかその行動を見張らせるという制度であるわけです。
第52条の3第3項(監理措置B)
「監理人は、自己が監理する被監理者による出頭の確保その他監理措置条件の遵守の確保に資するため、当該被監理者からの相談に応じ、当該被監理者に対し、住居の維持に係る支援、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うように努めるものとする。」
この項を読むと、この新しい制度で監理人を引き受ける者として、支援者なども想定されているように思えます。現行の仮放免制度では、支援者や弁護士が身元保証人を引き受けているケースが少なくありません。入管施設に収容された人のなかには、仮放免の保証人を頼める家族や親族が日本におらず、たよりにできる同国人のコミュニティもないという人は少なくありません。そうした人は、支援者や弁護士に保証人を引き受けてもらわなければ、仮放免を申請することができないわけです。
入管の収容が収容される人にとってきわめて過酷なものであること、医療放置や職員による暴行などの人権侵害事件が横行していることは、近年たびたび報道され、多くの人が知るところとなっています。そもそも、このブログでも何度も書いてきたように、劣悪な環境での長期収容を入管は帰国強要の手段として意図的・戦略的にもちいてきたのであり、そのことを法務大臣や入管幹部らは隠してすらいません*2。
まぎれもなく入管収容施設でおこなわれていることは拷問であり、長期間収容されて心身を破壊される人はあとをたたず、難民申請者は外部との通信をいちじるしく誓約された環境に収容されて自分が難民であることの立証作業を入管によって日々妨害されています。
支援者や弁護士が仮放免の保証人を引き受けてきたのは、こうした入管による人権侵害を許せないからであって、またそこに支援が切実に必要とされているからにほかなりません。入管の手先になるために保証人を引き受けている支援者や弁護士などおりません。
ところが、監理措置においては、監理人はいわば入管の手先として被監理者を監視し、その行動を監督することがその「責務」として課されるのです。被監理者にとっては、監理措置によって収容施設から出ることができても、生活状況や行動(日々どのようにすごしているのか、外出先、家賃や医療費・生活費などをそれぞれどうやって捻出しているのか、報酬を受ける活動をしていないか、など*3)を、入管への届出・報告義務を課された監理人によって監視・監督されるということになります。
(1)でみたように、監理人を選定するのは入管(主任審査官)ですから、現在仮放免の保証人を引き受けている支援者のすべてを、入管が監理人として選定するとはかぎらないわけですけれども、支援者にとって、仮放免の保証人になるのと監理措置における監理人になるのとでは、その意味あいはまったく異なってきます。
(3)監理人に課される届出義務
「監理人の責務」としてつぎに規定されているのは、主任審査官に対する届出と報告の義務です。
まず、届出の義務について。どのようなときに監理人は届け出をしなければならないとされるのか、以下にまとめておきます*4。
監理措置A(第44条の3第4項)
▼被監理者がつぎのいずれかに該当することを知ったとき。
- 逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当の理由がある。
- 証拠を隠滅し、又は隠滅すると疑うに足りる相当の理由がある。
- 監理措置条件に違反した。
- 主任審査官の許可を受けないで報酬を受ける活動を行った、又は収入を伴う事業を運営する活動を行った。
- 被監理者に課された届出義務(第44条の6)に違反した。
▼被監理者が死亡したとき。
▼上記のほか、監理措置を継続することに支障が生ずる場合として法務省令で定める場合に該当するとき。
監理措置B(第52条の3第4項)
▼被監理者がつぎのいずれかに該当することを知ったとき。
- 逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当の理由がある。
- 収入を伴う事業を運営する活動若しくは報酬を受ける活動を行い、又はこれらの活動を行うと疑うに足りる相当の理由がある。
- 監理措置条件に違反した。
- 被監理者に課された届出義務(第52条の5)に違反した。
▼被監理者が死亡したとき。
▼上記のほか、監理措置を継続することに支障が生ずる場合として法務省令で定める場合に該当するとき。
前回記事で述べたように、監理措置Bは全面的に就労が禁止される(例外なし)のに対し、監理措置Aは就労(報酬を受ける活動)が許可される場合があります。
監理措置Aにおいて被監理者が許可外の就労をした場合、監理措置Bにおいて被監理者が就労した場合、監理人は主任審査官にこれを届け出なければならないということになります。また、被監理者の「逃亡」や監理措置条件違反にも監理人は届出義務が課されています。
なお、上の監理人が届出を義務づけられている事項のうち黄色くマークした部分は、監理措置の取消し事由(監理措置A:第44条の4第2項, 監理措置B:第52条の4第2項)にもなっています。したがって、これらを監理人が届け出た場合、監理措置は取り消されて被監理者が収容されてしまうということになりえます。
そして、あとで述べるように届出をしなかったり、虚偽の届出をした場合、監理人は罰則(10万円以下の過料)の対象となります。たとえば、被監理者が自身や家族の生活のためにアルバイトをしたのを知ったとき、監理人がこれを入管に届け出れば被監理者は収容されてしまうでしょう。しかし、届け出なければ監理人自身が罰則を科されるかもしれないということです。
(4)監理人に課される報告義務
上の届出義務にくわえ、監理人は主任審査官に対する報告義務が規定されています。
監理措置B:「主任審査官は、被監理者による出頭の確保その他監理措置条件の遵守の確保のために必要があるときは、法務省令で定めるところにより、監理人に対し、当該被監理者の生活状況、監理措置条件の遵守状況その他法務省令で定める事項の報告を求めることができる。この場合においては、監理人は、法務省令で定めるところにより、当該報告をしなければならない。」(第52条の3第5項)
監理措置Aについても、ほぼ同じ内容の規定があります(第44条の3第5項)。
条文は、「主任審査官は、……監理人に対し……報告を求めることができる」という書き方をしているので、一見したところ、なにか特別な場合にだけ「報告を求める」のかなという印象も受けるのですけれども。しかし、「報告を求める」かどうかの判断は結局入管がすることになるので、すべてのケースで監理人は報告を要求されると考えたほうがよいでしょう。そして、入管(主任審査官)が求めたら、監理人は「当該報告をしなければならない」とその報告を義務づけられます。
このように、監理人に被監理者の生活・行動を日常的に監視させて入管に報告させ、被監理者がアルバイトして報酬を受け取ったり監理措置条件への違反があったりすればそれを入管にたれ込めと要求するのが、この監理措置制度です。
従来の仮放免制度においても、入管は「動静監視」と称して、仮放免者の生活・行動を調査し把握しようとしてきました。この「動静監視」を民間人である監理人にも一部アウトソース(外部委託)しようというのが、監理措置制度であると言えるでしょう。監理人は被監理者をスパイする役割を負わされることになります。
被監理者にとってみれば、家族や友人、あるいは支援者や弁護士など、自分を支援する立場の人間をつうじて、自身の行動を監視・監督されるということです。自分にとって身近な存在、しかも自分に必要な生活上の資源や情報を提供してくれる者から見張られるとなれば、ある面では入国警備官に監視される以上にその監視の強度は高くなるでしょう。
入管の視点からいえば、被監理者に対する支援者らの親密さや信頼関係を資源として利用することで、より強度の高い監視・管理をおこなおうというのが、監理措置制度を創設した意図としてあるでしょう。入管という組織を動かしている連中の反社会性、邪悪さがよくあらわれています。
(5)監理人に対する罰則(行政罰としての「過料」)
入管法は第70条以下が罰則の規定となっています。
第77条の2は「次の各号いずれかに該当する者は、10万円以下の過料に処する。」としており、今回の法改定では、その第2号から第6号がそれぞれ監理人の届出・報告義務違反への罰則として新設されました。各号は以下のとおりです。
- 第2号「第44条の3第4項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者」(→監理措置Aについての届出義務違反)
- 第3号「第44条の3第5項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者」(→監理措置Aについての報告義務違反)
- 第4号「第44条の3第7項(第52条の3第6項において準用する場合を含む。)の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者」(→監理措置AおよびBについて、監理人を辞任する場合の届出義務違反)
- 第5号「第52条の3第4項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者」(→監理措置Bについての届出義務違反)
- 第6号「第52条の3第5項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者」(→監理措置Bについての報告義務違反)
3.被監理者に対する罰則規定
今回の法改定で創設された監理措置制度では、被監理者に対する罰則(刑事罰!)が規定されています。この点も、従来の仮放免制度との大きな違いです。
(1)就労に対する罰則
第70条 次の各号のいずれかに該当する者は3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは3百万円以下の罰金に処し、又は懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する。
……
第9号(新設) 第44条の2第7項に規定する監理措置決定を受けた者で、第44条の5第1項の規定による許可を受けないで報酬を受ける活動を行ったもの又は収入を伴う事業を運営する活動を行ったもの(在留資格をもって在留する者を除く。)
第10号(新設) 第52条の2第6項に規定する監理措置決定を受けた者で、収入を伴う活動を行ったもの又は報酬を受ける活動を行ったもの
第9号は監理措置A、第10号は監理措置Bについての規定です。
仮放免については、現行法・改定法いずれにおいても、就労は仮放免の条件違反には問われうるものの、刑事罰の対象ではありません。今回創設される監理措置制度は、就労を監理措置条件違反に問うだけでなく、これを犯罪化して刑罰の対象にするという点で、ある種の一線をこえた悪法だと言うべきです。
ごくごく当たり前のことを言いますが、家族などをふくめて支援を受けられる人間関係がとぼしい人、あるいは資産のない人にとって、就労は生きて抜いていくのに欠かせない重要な条件になることがあります。社会保障からほとんど排除されている非正規滞在の外国人にとっては、なおさらそうです。したがって、就労を禁止するということが、ときとして「死ね」と言っているにひとしい場合が存在するわけです。就労を犯罪化し刑事罰を科す監理措置制度は、生きること、生きようとすること自体を犯罪として罰しようとするものです。これは、たかが(とあえて言いますが)国家の出入国管理の業務を、人間の生存権よりも大事にする立法であり、物事の軽重についての価値のつけかたが完全に狂っているとしか言いようがありません。
なお、2の(3)(4)で述べたように、監理人には届出・報告の義務が課されます。監理人にとっては、法に規定された義務を果たすことで、なんの罪もない、たんに仕事をしてその対価として報酬を受け取っただけの被監理者を刑務所に送るということに、なりかねません。
(2)「逃亡」に対する罰則
第72条 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役若しくは20万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
……
第3号(新設) 第44条の2第1項若しくは第6項又は第52条の2第1項若しくは第5項の規定に基づき付された条件に違反して、逃亡し、又は正当な理由がなくて呼出しに応じない者
……
第6号(新設) 第54条第2項の規定により仮放免された者で、同項の規定に基づき付された条件に違反して、逃亡し、又は正当な理由がなくて呼出しに応じないもの
監理措置制度においては、上記第6号のとおり、被監理者の「逃亡」についても、監理措置条件違反に問うばかりではなく、刑事罰が規定されています。
上の第3号は、仮放免者の「逃亡」についての罰則規定で、これも今回の改定法で新設されたものです。現行法では、仮放免者の「逃亡」は仮放免条件違反に問われ、仮放免取消し(→収容)の理由にはなりましたが、刑事罰の対象ではありませんでした。
4.おわりに
以上、監理措置制度の問題点をみてきました。改悪入管法は2024年6月までの施行が予定されているわけですけれど、ここで創設される監理措置制度もまた、この法律の施行を許してはならない重要な理由のひとつと言えます。
監理措置については、入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合が「人間破壊の『監理措置制度』導入反対と入管への要請」と題する反対声明を出しています。短い文章でわかりやすく監理措置の問題性を指摘していますので、一読をおすすめします。
「監理措置制度」反対 声明文 | 入管闘争市民連合
【注】
*1: 監理措置Aにおいては第44条の3第2項から同5項で「監理人の責務」が規定されています。条文の内容は監理措置Bのそれとほぼ同じ。
*2: 入管が長期収容が帰国強要の手段として意図的・戦略的にもちいてきたということは、以下の記事などで述べました。
「すがってはいけないワラ」とか言うなら浮き輪でも投げて助けろよ 入管法審議での維新・梅村氏の発言について(2023年5月13日)
「強制送還を忌避」させないための無期限収容 入管庁西山次長の国会答弁は憲法36条への挑戦ではないのか?(2023年4月21日)
「送還忌避者の発生を抑制する適切な処遇」とはなにか? 国家犯罪としての入管収容(2021年10月28日)
公然化されつつある拷問――出国強要の手段としての無期限長期収容(2021年4月3日)
*3: ここであげた例は、いずれも現行の仮放免制度において、入国警備官が、自宅訪問や隠密におこなう監視・尾行、本人との面接などを通じて、現に調査している事項です。つまり、収容を解かれた人についてこういったことを入管は把握したいということであって、それは監理措置においても同様だと推測できます。
*4: 条文をそのまま引くとややわずらわしいので、言葉をかえたり省略したりしながらまとめています。