2023年12月6日

【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈2〉


【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈1〉のつづき


1.はじめに

 施行をひかえた*1改定入管法では、従来からある仮放免制度が一応は維持されるいっぽうで、監理措置という収容解除のための新しい制度が創設されることになります。前回記事では、改定法の条文を引きながら、仮放免制度についての変更点をみました。新たな入管法では、仮放免はきわめて限定的な場合にのみ適用される例外的な措置と位置づけられており、収容解除の制度としては監理措置に事実上の一本化をしたいというのが入管の意図なのだろうと考えられます。

 今回の記事では、その監理措置という制度がいかに深刻な問題をはらんでいるのか、改定入管法の条文を参照しつつ、みていきます。



2.原則「収容」の例外としての監理措置

 さて、監理措置がどういう制度なのかをみていくまえに、収容の制度について、大まかに理解しておく必要があります。入管法上の「収容」には2つの種類があります。


A)違反の「容疑」を審査するための収容(収容令書にもとづく収容)

  • 最大60日間。
  • 退去強制手続き(違反審査、口頭審理、異議申し立て、法務大臣裁決)をへて、「放免(在留継続)」「在留特別許可」「退去強制令書(退令)発付」のいずれかの処分を決する。

B)退去強制処分を受けたひとの収容(退去強制令書にもとづく収容)

  • 収容期間の上限なし。
  • 送還のための身体拘束。


 Aの収容は、退去強制(強制送還)すべきかどうかを決める手続きをおこなうための収容です。その手続きのやり方などについては非常に大きな問題があるのですが、この記事ではふれません。

 Bの収容は、Aの結果、退去強制処分が決まった人をただちに送還できないときに、「送還可能なときまで」収容するというものです(現行法第52条第5項、改定法第52条第7, 8項)。収容期間の上限はさだめられておらず、そのことが長期収容問題の大きな原因となっています。

 ABいずれについても、入管法上、収容すること(監禁して自由を奪うこと)が原則となっており、収容を解くための監理措置(あるいは仮放免)は、あくまでも例外的な措置として位置づけられています。野蛮な制度ですね。

 この「収容(身体拘束)が原則」「収容解除は例外」という構図は、現行法・改定法とも変わりません。



3.監理措置Aと監理措置B

 このAとBの収容に対応して、監理措置にも2種類あります。ここでは便宜上「監理措置A」と「監理措置B」と呼ぶことにします(法律に「A」とか「B」とか書いてあるわけではありません)。改定法においてそれぞれを規定する条文の番号もあげておきます。


監理措置A:退去強制手続き中(退令未発付)の監理措置
  • 第44条の2(収容に代わる監理措置)
  • 第44条の3(監理人)
  • 第44条の4(監理措置決定の取消し)
  • 第44条の5(報酬を受ける活動の許可等
  • 第44条の6(被監理者による届出)
  • 第44条の7(違反事件の引継ぎ)
  • 第44条の8(監理措置決定の失効)
  • 第44条の9(事実の調査)

監理措置B:退去強制を受ける者(被退令発付者)の監理措置
  • 第52条の2(収容に代わる監理措置)
  • 第52条の3(監理人)
  • 第52条の4(監理措置決定の取消し)
  • 第52条の5(被監理者による届出)
  • 第52条の6(監理措置決定の失効)
  • 第52条の7(事実の調査)


 入管法上の位置づけの異なる2つの収容に対応して、監理措置Aと監理措置Bがあるわけなので、上記のようにその決定であったり取消しであったりといった手続きはそれぞれ別々の条文で規定されています。

 監理措置を受けて収容を解除される人(「被監理者」といいます)にとっての大きな違いは、監理措置Aは、就労(報酬を受ける活動)が許可される場合があるという点です*2

 もういっぽうの監理措置Bは、就労は禁止であり、そこに例外はありません。就労が認められないのは仮放免も同じなのですが、これに関して監理措置は仮放免と大きな違いがあります。それはあとで(次回記事で)述べます。

 では、監理措置がどのような制度なのか、以下、条文をみていくことにします。



4.だれがどんなときに監理措置を決定するのか?

 監理措置の決定は、主任審査官がします(監理措置A:第44条の2第1項, 監理措置B:第52条の2第1項)。「主任審査官」というのは、地方入管局(東京入管、名古屋入管、大阪入管等)の局長・次長などです。

 その主任審査官がどのようなときに監理措置の決定をするのかは、つぎのように規定されています。


監理措置A:「容疑者が逃亡し、又は証拠を隠滅するおそれの程度、収容により容疑者が受ける不利益の程度その他の事情を考慮し、容疑者を収容しないでこの章に規定する退去強制の手続を行うことが相当と認めるとき」(第44条の2第1項, 同第6項)

監理措置B:退去強制を受ける者が「逃亡し、又は不法就労活動をするおそれの程度、収容によりその者が受ける不利益の程度その他の事情を考慮し、送還可能のときまでその者を収容しないことが相当と認めるとき」(第52条の2第1項, 同第5項)


 監理措置を決定するのは、主任審査官が「相当と認めるとき」ということであって、結局のところ入管の判断しだいということになりますね。

 なお、監理措置は被収容者がこれを主任審査官に請求できるということも規定されています(監理措置A:第44条の2第4項, 監理措置B:第52条の2第4項)。つまり、監理措置は、請求(申請)を受けて主任審査官が決定する場合と、請求(申請)を待たずに主任審査官が職権で決定する場合があるということになります。職権のと請求のがある点は、仮放免と同じです。



5.監理措置条件(違反すると監理措置取消&保証金没取)

 監理措置を決定する場合、主任審査官は「監理措置条件」というものを付けることになっています(監理措置A:第44条の2第1項, 監理措置B:第52条の2第1項, 同第5項)。

 「監理措置条件」とは、つぎのようなものです。


監理措置A:「住居及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務その他逃亡及び証拠の隠滅を防止するために必要と認める条件」(第44条の2第1項)

監理措置B:「住居及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務その他逃亡及び不法就労活動を防止するために必要と認める条件」(第52条の2第1項)


 あとでみるようにこの「条件」には、違反した場合のいわば事実上のペナルティが規定されています。監理措置の取消と保証金の没取です。監理措置が取り消されるということは、収容されるということを意味します。

 つまり、収容(監禁)という事実上のペナルティを脅しにして、収容を解除された人の行動をコントロールしようというのが、この「監理措置条件」というものだと言ってよいでしょう。「条件を守らなかったら収容するぞ」というわけです。

 従来からある仮放免制度も、同様に「条件を守らなかったら収容するぞ」という脅しをもちいながら、収容を解かれた人をコントロールしようという仕組みになっています。

 仮放免が許可された人には、その人の名前や顔写真、国籍、住所などが記された「仮放免許可書」という書面が個々人ごとに交付されます。その裏面に「仮放免の条件」が記載されています。以下は、大村入管センターから仮放免された人の仮放免許可書の裏面に記載された「仮放免の条件」の例です(個人を特定できないよう内容を一部改変するとともに伏字にしています)。


(1)住居

大阪府●●市●●1丁目●‐● 203号室

(2)行動範囲

長崎県から住居の存在する大阪府までの経路(住居に到着するまでに限る)及び住居の存在する大阪府

(3)出頭を命じられたときは、指定された日時及び場所に出頭しなければなりません。

(4)仮放免の期間

令和●年●月●日から令和●年●月●日17時00分まで

(5)その他

令和●年●月●日13時00分に大阪入国管理局審判部門へ出頭すること。
職業又は報酬を受ける活動に従事できない。


仮放免許可書の裏面(例)
「仮放免の条件」が記載されている。

 これら「仮放免の条件」に違反した場合は、仮放免取消し(→収容)と保証金没取の対象になります。このうち保証金没取については、前回記事で述べたように今回の法改定で保証金についての規定そのものものが削除されることになったので、改定法施行後は仮放免されるときに保証金納付が求められることがなくなるはずです。

 さて、新しく創設される監理措置の「条件」も、さきの条文をみるかぎりでは、「仮放免の条件」と同様のものが付けれれるのではないかと思われます。

 では、監理措置条件に違反した場合にどうなるのか。条文にどう書かれているのか、みておきます。

 第1に、保証金没取の対象となります。今回の入管法改定において、仮放免にともなって保証金を納付させる制度は廃止されましたが、新しく創設された監理措置制度においては、主任審査官は「3百万円を超えない範囲内で法務省令で定める額の保証金」を納付させることができると規定されています(監理措置A:第44条の2第2項, 同第6項、監理措置B:第52条の2第2項, 同第5項)。被監理者が監理措置条件に違反した場合、主任審査官は「保証金の全部又は一部を没取するものとする」と規定されています(監理措置A:第44条の4第5項, 監理措置B:第52条の4第4項)。

 第2に、「監理措置条件」に違反した場合、主任審査官は監理措置を取り消すことができると規定されています(監理措置A:第44条の4第2項, 監理措置B:第52条の4第2項)。この場合の監理措置の取消しは、収容されるということを意味します。


 以上、今回の記事では、

  • 「収容」を原則とする制度において、例外的な収容解除として、監理措置が位置づけられている
  • 監理措置には「監理措置条件」が付けられ、これに違反した場合に事実上のペナルティとして監理措置が取り消されることがある

といったことをみてきたわけですが、これらは従来からある仮放免とも共通した点であります。

 監理措置制度のはらむ深刻な問題は、これから述べるにあります。次回記事で、仮放免とも比較しながら、監理措置の問題性をみていきたいと思います。


【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈3〉につづく



【注】

*1: 施行日は改定法の附則の第1条に「この法律は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」と規定されています。公布日が2023年6月16日なので、そこから「起算して1年を超えない範囲内」のどこかで施行されることになっています。 

*2: 第44条の5第1項「主任審査官は、被監理者の生計を維持するために必要であつて、相当と認めるときは、被監理者の申請(監理人の同意があるものに限る。)により、その生計の維持に必要な範囲内で、監理人による監理の下に、主任審査官が指定する本邦の公私の機関との雇用に関する契約に基づいて行う報酬を受ける活動として相当であるものを行うことを許可することができる。この場合において、主任審査官は、当該許可に必要な条件を付することができる。」


0 件のコメント:

コメントを投稿