2023年12月2日

【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈1〉


1.はじめに

 6月に国会で強行採決された改悪入管法。公布日から1年以内(来年6月16日までのどこか)に施行されることになっています。

 この改悪入管法は、3回目以降の難民申請者の強制送還を可能にする点などが、大きな問題として広く認識されていると思います。しかし、それと比べるとあまり共有されていないですが、「監理措置」というあらたに作られた制度もまた相当に深刻な問題点をはらんでいます。

 「監理措置」制度の問題の深刻さを理解・共有するうえでやっかいなのは、この制度を入管がどのように運用するつもりなのか、いまだによくみえてこないというところです。国会審議でも、また強行採決後いまにいたるまでも、政府や入管庁はそこを十分に説明してきたとはいえません。

 そこで、改悪法の条文を読みながら、「監理措置」制度が条文でどのように規定されているのかを確認し、それが入管によってどのように運用されうる制度なのか、考える材料を共有できたらと思います。



2.「仮放免」と「監理措置」――2つの制度の併存

 従来の入管制度においても、「仮放免」という、収容を解除して施設から出所させる制度がすでにあります。改定入管法では、この仮放免制度が一応は残されるいっぽうで、新たに監理措置という制度が設置されました。 つまり、仮放免と監理措置という2つの収容解除のための制度が併存するということになります。 そういうわけで、以下のようなところが疑問点としてうかんできます。


(1)監理措置は仮放免とどうちがうの?(監理措置のなにが問題なのか?)

(2)監理措置はどのようなケースに適用されるのか?

(3)仮放免はどのようなケースに適用されるのか?(現行法で仮放免されている人は、改定法施行後も仮放免が「更新(延長)」されるのか?)


 このブログ記事では、(1)(2)(3)の疑問点を念頭に、改定法が現行法とどう変わったのか、条文をみていきます。

 ただし、条文の文言だけでは、改定法施行後に入管がそれをどう運用していくのか、わかりません。また、入管がどのように法を運用するのかは、さまざまな要因(対抗運動や世論の動向などもふくむ)によって変わってくるということも、重要です。そうしたところを頭に入れて、今後おきてくる事態にどうのぞんだらよいのか、考えていく必要があります。



3.仮放免について変更点

 さて、このブログ記事では監理措置という新たな制度がどのように改定入管法で規定されているのかをみていくのですけれど、そのまえに、仮放免についての規定がどう変わったのか、ということをおさえておきましょう。

 仮放免の制度自体は、改定された入管法においても一応は維持されます。入管施設に収容されている人やその代理人らが仮放免を請求(申請)できること(第54条第1項)、また、入国者収容所長らがその請求(申請を)待たずに職権での仮放免もできるということ(第54条第2項)も、改定法で変わりません。

 しかし、以下の第54条第2項の変更は、今回の法改定をすすめてきた入管庁の意図がよくあらわれているようにもみえ、今後、新しい入管法を入管庁がどのように運用しようとしているのか読みとるうえでも重要なところだと思われます。


現行法 第54条第2項
「入国者収容所長又は主任審査官は、前項の請求により又は職権で、法務省令で定めるところにより、収容令書又は退去強制令書の発付を受けて収容されている者の情状及び仮放免の請求の理由となる証拠並びにその者の性格、資産等を考慮して3百万円を超えない範囲で法務省令で定める額の保証金を納付させ、かつ、住居及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務その他必要と認める条件を付して、その者を仮放免することができる。」
改定法 第54条第2項
「入国者収容所長又は主任審査官は、前項の請求により又は職権で、収容令書又は退去強制令書の発付を受けて収容されている者について、健康上、人道上その他これに準ずる理由によりその収容を一時的に解除することを相当と認めるときは、法務省で定めるところにより、期間を定めて、かつ、住居及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務その他必要と認める条件を付して、その者を仮放免することができる。」


 大きな違いは2つあります。


(1)許否判断における考慮要素

 まず、許否判断における考慮要素(許可/不許可を判断するうえで何を考慮するのか?)について、以下のように変わっています。


現行法「収容されている者の情状及び仮放免の請求の理由となる証拠並びにその者の性格、資産等を考慮して

   ↓

改定法「健康上、人道上その他これらに準ずる理由によりその収容を一時的に解除することを相当と認めるとき


 上の現行法は、よくもわるくも、この考慮要素があいまいで漠然としか規定されていなかったと言えます。

 これが改定法になると、「健康上、人道上その他これらに準ずる理由」とかなり明示的・限定的になっています。「健康上」というのは、収容・送還にたえられない重病人、「人道上」はたとえば未成年者などが想定されているのでしょうか。

 しかし、従来の仮放免制度の運用の実態をみると、もっと広い要素が考慮されてきたのは確かです。

 たとえば、難民申請している人が、難民該当性の立証作業を理由に仮放免を申請し、これが認められて仮放免を許可されたと考えられるケースは多々みうけられます。難民認定手続きにおいて、難民申請者が難民に該当することを立証する責任は、申請者本人に課されています。証拠の資料などは申請者が自分で収集してきて提出しろということが求められているわけです。ところが、収容(=監禁)によって自由をうばわれ、人と会うことも家族・親族や知人との通信もいちじるしく制限され、インターネットに接続することすらできない環境で、立証作業などできるわけがありません。収容は、入管の難民申請者に対する立証妨害と言えます。そこで、難民該当性の立証のために必要であるということが、難民申請者にとって仮放免を請求する理由になるわけです。

 ところが、改定法の規定を読むかぎりでは、こうした理由での仮放免は想定していないように思われます。この立法に大きく関与してもきた入管の役人の想定では、仮放免は重病人など収容を継続できないと入管が判断した場合にのみ適用し、難民該当性の立証作業や訴訟準備を理由とする収容解除は監理措置でおこなうといった使い分けを考えているのではないかと想像できます。


(2)保証金についての規定が削除されている

 さきにみた第54条第2項のもうひとつ重要な変更点は、現行法にある「3百万円を超えない範囲で法務省令で定める額の保証金を納付させ」という保証金についての規定が削除されていることです。

 現行の仮放免制度の運用では、請求(申請)による仮放免の場合、保証金の納付が入管から要求されています(入国者収容所長らの職権での仮放免の場合は、保証金の納付は要求されていないようです)。仮放免された人が「逃亡」した場合、納付された保証金は没取するとの規定が第55条第3項にあります*1。この保証金には、「逃亡」に事実上のペナルティを科し、これを防止するという意味あいがあるわけです。

 ところが改定入管法では、仮放免の保証金に関する規定は、その没取の規定もふくめ、すべて削除されています。なお、「保証書」というものを規定した条文も現行法にはあるのですが(仮放免される人以外の人が差し出す保証書によって保証金に代えることができるというもの。第54条第3項*2)、これも改定法では削除されています。

 いっぽうで、新しく作られた監理措置については、あとでみるように主任審査官は「三百万円を超えない範囲内で法務省令で定める額の保証金」の納付を監理措置の条件とすることができるという規定がもうけられています(第44条の2第2項、第52条の2第2項)。


(1)(2)から推測できること――仮放免は例外的な措置に?

 こういったところをみると、改定法施行後は、仮放免制度は入管が収容して面倒をみきれない重病人などの収容を解除する(「放り出す」という表現が適切かもしれません)場合など、きわめて例外的・限定的な場面でしか適用しないということが、入管当局の想定としてはあるのではないかと考えられます。考慮要素を「健康上、人道上その他これらに準ずる理由」とせまく限定して規定したのも、また、保証金納付を仮放免については不要とするのも、仮放免はあくまでも例外的措置と位置づけ、収容解除は監理措置に事実上の一本化をしたいという入管の意図のあらわれではないでしょうか

 ただし、この記事の最初のほうでも述べたように、法律がどのように運用されるのかということは、それを運用する入管の意図だけで決まるものではなく、世論の動向などをふくんださまざまな要素によっても変わってきます。つぎの記事では、その点をふまえながら、今回の法改定で創設されることになった「監理措置」とはどういう制度なのか、入管法の条文をみていきます。


【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈2〉につづく



【注】 

*1: 現行法第55条第3項「入国者収容所長又は主任審査官は、逃亡し、又は正当な理由がなくて呼出に応じないことを理由とする仮放免の取消をしたときは保証金の全部、その他の理由によるときはその一部を没取するものとする。」

*2: 現行法第54条第3項「入国者収容所長又は主任審査官は、適当と認めるときは、収容令書又は退去強制令書の発付を受けて収容されている者以外の者の差し出した保証書をもつて保証金に代えることを許すことができる。保証書には、保証金額及びいつでもその保証金を納付する旨を記載しなければならない。」

0 件のコメント:

コメントを投稿