2024年12月28日

【ドラマ感想】IRIS-アイリス-

 

IRIS-アイリス- | サンテレビ


 一話一話が「次どうなるの?」と気をもませる展開で、録画していた全28話をあっという間に見終えてしまった。

 最終話は謎を残す驚愕の終わり方で、「え? どういうこと?」とぽかんとしてしまったのだが、続編(アイリス2)があるのね。

 思いっきりかいつまんでまとめてしまえば、大韓民国の特殊機関(要人警護から諜報活動までおこなう)のメンバーが、朝鮮民主主義人民共和国のやはり特殊機関のメンバーとひょんなことから出会い、核兵器を使ったテロを阻止するために共闘するというお話。

 共和国の諜報員を演じるキム・ソヨンさんの演技がすばらしかった。キム・ソヨンさんといえば、「ペントハウス」(2020年制作)でのエキセントリックなソプラノ歌手の役が強烈だったけれど、愛情と悲しみ、使命感といった感情を静かに表現する演技が心にひびいた。イ・ビョンホンさん演じる主人公らと協力してソウルでの核テロを阻止したあと、共和国に戻るとつげるときの表情の変化とか、「ペントハウス」の悪役チョン・ソジンと同じ俳優さんが演じているのかとびっくりした。

 チョン・ジュノさん(若い!)は、親友だった主人公をうらぎることになる葛藤ぶくみの心情をたくみに演じていた。すでにこのころから、上手な役者さんだったんですね。

 ドラマが放送されたのは2009年ということだが、南北の対話と緊張緩和への期待が高まった時期なのだろうか。共和国の軍人・諜報員たちも悪魔化・非人間化されるのではなく、あたたかい感情をもつ、ひとりひとりが個性的な人間として描かれていたように思う。

 韓国で制作・放送されたドラマだが、敵は北ではないのだというメッセージが強くこめられているように感じた。 南北の諜報員らはいくつかの偶然がかさなって共闘することになるわけだけど、かれらが敵として対峙するのは「アイリス」と呼ばれる謎につつまれた秘密の組織だ。「アイリス」は、国家間の紛争や緊張関係によって利益をえている者たちによる組織であることが示唆される。だれがメンバーなのかは、組織内でも限定的にしか共有されないが、南北それぞれの国家機関にもその要員はもぐりこんでおり、南北の統一に向かおうとする動きを妨害する工作をおこなう。そのアイリスの秘密にせまり、その陰謀に対して南北の体制をこえた協働によって立ち向かう、というドラマだ。

 それはとても感動的なのだけど、日本人としてどういう立場からこれを鑑賞できるのだろうかと、考え込んでしまう。ドラマは、実在する個人や組織、国家とは無関係であるとの注意書きをつけて放送されるフィクション作品であるわけだけれど、「アイリス」はたんなる空想的な陰謀組織ではないわけです。それは陰謀であっても、現実に存在し実行されてきた陰謀なのだから。朝鮮半島を分断状況に置き、これによって利益をえてきた者たちは現に存在している。そもそもの南北分断の原因を作った侵略と植民地支配をおこなった日本は、現在もまさにその「アイリス」の一角としての挙動をしている。たとえば、ちょっとまえにもこういうニュースがあったとおり。


「終戦宣言」に日本難色 朝鮮戦争 韓国が提案 米は留保 | 沖縄タイムス+プラス(2021年11月7日 5:00)

 【ワシントン共同=高木良平】日米韓3カ国が先月ワシントンで開いた岸田政権発足後初の高官協議で、北朝鮮との信頼醸成措置として休戦状態の朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を望む韓国に対し、日本が「時期尚早」として難色を示したことが5日分かった。複数の外交筋が明らかにした。


 というわけで、ドラマをみて感動するのだけど、消費者として鑑賞してるだけですむのかというと、そういうわけにもいかないのである。


2024年12月17日

2024/12/27キャンドルアクション 大阪入管前で抗議の声を

  年末のキャンドルアクション、今年もやります。大阪入管前で抗議と被収容者への激励の声をあげます。

 以下は、呼びかけのチラシから。


2024キャンドルアクション

 今年は2024/12/28(土)から2025/01/05(日)まで、大阪入管はお休みです。

 その間被収容者は誰にも面会できず、家族にも会えない年末年始を過ごすことになります。難民や日本に家族がいるなどのやむを得ない事情のある人でも、いつまで収容されるのか、常に強制送還されるかもしれないという恐怖と絶望が常に付き纏います。

 そのため、家族友人はもちろん、支援者や市民からの応援の言葉、掛け声が何よりも希望なのです!激励の声を届けましょう!ぜひご参加ください!

2024/12/27(金)19:00~20:00
場所: 大阪入管前 ※途中参加途中退出ok
(最寄り駅: コスモスクエア駅)

主催: TRY~外国人労働者・難民と共に歩む会~


2024キャンドルアクションのチラシ


 このキャンドルアクション、今回で8年目になります。大阪入管で面会活動している団体や個人がいっしょに取り組んできた企画で、例年TRYさんが主催をになってくれています。

 最初にこの企画をおこなったのは、2017年の12月です。収容の長期化が非常に深刻だった時期です。参加を呼びかけた当時のチラシには、「大阪入管では、収容期間が2年、3年をこえても出所できないという、超長期収容が常態化してい」ることを指摘したうえで、つぎのように書いています。


 収容期間が2年や3年と長期化するのは、大阪入管が送還の見込みの立たない人の収容に固執しているからにほかなりません。送還のための施設でありながら、その見込みがないのにいたずらに監禁をつづけるのは、入管法での収容の位置づけから逸脱しており、事実上の懲罰・制裁を科すものといえます。また、長期収容は国家権力が恣意的に被収容者のの心身に苦痛を与えるものであり、拷問と言っても過言ではありません。

 大阪入管で長期間にわたって収容されている人々の多くは、難民であったり、日本に家族がいるといった理由で、帰国できない事情をかかえた人たちです。こういった人々を長期収容して在留の意思をくじき、帰国に追い込もうという現在の大阪入管の方針に対しては、収容されている当事者たちによる抗議も日々おこなわれています。被収容者たちに、外から励ましの声を届けましょう。


2017年のキャンドルアクションのチラシ


 帰国に追い込むために身体を拘束しつづけるということ。チラシでは大阪入管を問題にしていますが、こうした拷問としか言いようのない異常なやり方は、全国の入管でおこなわれていました。その結果として、入管での収容死が全国的にあいつぎました*1

 大阪入管では、死亡者こそ出なかったものの、2017年には、被収容者がのちに国に賠償を求め訴訟になった暴行事件が2つありました*2。長期収容が被収容者たちの抗議を頻発させ、これを暴力の行使と威嚇によっておさえこむという大阪入管の手法が、これらの事件を生み出したのだと言えます。


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 こうして長期収容への抗議として始めたのがキャンドルアクションでしたが、8年目の今年は当時と状況が変わっているのも事実です。

 現在、大阪入管では6か月をこえる長期の被収容者はほとんどいません。2017年当時は、2年をこえるような超長期収容がめずらしくもなかったのと比べると、大きく違います。被収容者のうち、在留を希望している人の数も、いまは10名もいない。

 これが、わざわざ入管前での抗議行動をやる必要性が小さくなっているということならばうれしいのですが、残念ながらそうでもないのです。むしろ、今年こそキャンドルアクションをやらなければならないという思いが、私は強いです。それは6月から施行されている改悪入管法のせいです。


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 入管法の改悪にともない、監理措置という新しい制度が創設されました。

 監理措置というのは入管の収容に関する制度ですが、簡単に言えば、家族や友人・支援者などを「監理人」という監視役につけるかわりに、収容を解除して入管施設外での生活を許可するという措置です。

 この制度がいかにやばい問題をふくんでいるかについては、以下の記事などで書いていますが、今回はそこには立ち入りません。

宇宙広場で考える: 支援者を人権侵害の共犯者にする 監理措置制度のやばさ(2024年11月10日)

 とにかく、この新しい制度の実績をつくって早く定着させたいからなのか知りませんが、大阪入管は監理措置を申請した被収容者はどんどん許可して出所させています。なので、家族や親族、知り合いなどに「監理人」を引き受けてもらって監視措置を申請した人は、さほど収容が長くなるまえに、収容を解かれて外に出ていきます。

 いっぽうで、入管法改悪前から制度としてある「仮放免」については、例外的にしか認めないという方針を、入管は現在とっています。大阪入管でも、改悪法の施行後、仮放免申請はほぼほぼすべて不許可になっています。

 そういうわけで、「監理人」を引き受けてくれる人を見つけられない、たとえば空港で拘束されて収容された難民申請者は、収容を解かれて入管施設の外に出られる見込みがない、という状況に置かれてしまうわけです。

 従来であれば、そういう人たちについては、支援者や弁護士が身元保証人を引き受けて、「仮放免」という措置によって収容から解放されるということが多くありました。しかし、その仮放免は申請しても入管は許可しない。あたらしくできた監理措置のほうであれば、申請すれば入管が認める可能性は高いけれど、うえのリンク先の記事でも書いたとおり、制度の問題が大きすぎて、支援者や弁護士で「監理人」を引き受ける人はいない。

 私の面会している人のひとりも、まさにそういう状況にはまりこんでしまっています。自分の国での政治的な迫害から逃れてなんとか関西空港にたどりついたけれど、そこで拘束され収容されてしまった人です。私たち面会におとずれるボランティアの支援者のほかに、日本に知り合いなどひとりもいません。「監理人」の引き受け手などいるはずもない。

 家族などがいて監理人を引き受けてもらって監理措置を申請できた被収容者は、ひとり、またひとりと収容を解かれて去っていきますが、この人は外に出られる見込みもないまま、何か月も取り残されています。こうしていつ終わるとも知れない収容が続くこと自体が、大変なストレスでしょう。

 また、身体が拘束された状態では、自分が難民であることを裏づける証拠を集めることも不可能です。入管は収容によって難民申請者の立証作業を妨害しているのです。

 というわけで、入管による不当な収容に抗議の声をあげる必要性も、また収容された人にはげましの声を届ける必要性も、残念ながら減ってはいません。ぜひいっしょに声をあげてください。







*1:  2018年4月には茨城県牛久の入管センターで長期収容を苦にしてインド人被収容者が自殺しました。仮放免の不許可を知らされた翌日の自死でした。
 おなじ年の秋には、宗教的な迫害から逃れてきた中国人親子を福岡入管が拘束。入管は難民申請した親子の収容を継続し、執拗に帰国をせまり、持病のある父親を収容死させました。遺族が国に賠償を求めた裁判は、先日(12月12日)、請求棄却という(不当な)一審判決が大阪地裁で出たところです。しかし、亡くなった父親は、「不当な収容(監禁)によって難民申請者の立証作業を妨害し、保護を求めてやってきた難民を追い返そうとする」「ゆがんだ入管行政」の犠牲者と言うべきでしょう。
 2019年6月には、長崎県大村の入管センターで、3年半もの超長期収容に抗議してハンストしていたナイジェリア人被収容者を入管がほったらかして餓死させました
 そして、2021年3月。体調不良で食事をとれない状態が続き飢餓状態にあったウィシュマさんを名古屋入管が放置し、死に追いやった事件。


*2: このうち、2017年7月にトルコ国籍の被収容者が入管職員たちから暴行を受けた事件については、2020年9月29日に被害者と国のあいだで和解が成立しています。
 もう1つの、ペルー人被収容者が暴行を受けた事件の国賠訴訟は、現在も大阪地裁で係争中です。

2024年12月7日

バカバカしいほどの報道の仰々しさ

 

 ときどき、地方紙やテレビの地方局のウェブサイトに、入管法違反で外国人が摘発されたというニュースが掲載されているのを目にすることがある。警察発表をただたれ流したような内容のニュースだ。市民・住民の生活にとって、いちいち報道する意義があるとはまったく思えない。

 たとえば福島中央テレビのつぎのようなニュース。


福島市で自称台湾国籍の若い女を出入国管理及び難民認定法違反容疑で現行犯逮捕・福島(2024年12月5日掲載)|中テレNEWS NNN

福島市で自称台湾国籍の女が旅券不携帯の疑いで現行犯で逮捕されました。

出入国管理及び難民認定法違反の疑いで逮捕されたのは自称台湾国籍で住居不定、職業不詳の若い女です。

12月5日午後2時20分ごろ、一般の人からの通報を受け、現場に駆けつけた警察官がパスポートの提示を求めたところ、所持していないことが判明し、出入国管理及び難民認定法違反容疑で現行犯逮捕されました。

警察は女がなぜパスポートを持っていないのか調べています。


 たかがパスポートの不所持である。捜査の過程で在留期間切れ(オーバーステイ)などが明らかになるかもしれないし、あるいはそうではないかもしれない。たんにパスポートを持ち歩いていなかっただけかもしれない(たとえば買い物やパチンコに出かけるのに、わざわざパスポートなんか持ってでるかっつうの)。いずれにしろ、福島市の市民・住民の安全や福祉になんの関係もないニュースである。

 それにしても、このバカバカしいほどの仰々しさをみよ。「現場に駆けつけた警察官がパスポートの提示を求めたところ、所持していないことが判明し」とか、「警察は女がなぜパスポートを持っていないのか調べています」とか。くだらないことをくそまじめに書かないでくれ。あほらしい。

 まじめに書くべきことがあるとすれば、どうして警察官は「外国人」(にみえる)相手に対しては、旅券みせろと要求し、みせなかったら「旅券不携帯」だと言ってしょっぴくことが許されているのか、またそれは許されてよいことなのかとか、そういった問題についてではないの?

 こういうニュースが、だれにとって有益かといえば、警察や入管である。要約するならば、法に違反している(疑いのある)「外国人」がいて、それを警察官が逮捕したという報道である。実際のところは、オーバーステイになっている人を摘発したところで、市民・住民の安全や生活の向上に寄与することなど、あるはずもない。でも、上に引いたようなニュースは、「われわれ」(ってだれだ?)の安全をおびやかす「外国人」が地域におり、警察や入管がこれを取り締まることで「われわれ」の安全を守ってくれているかのような(誤った)イメージを視聴者や読者に植えつけようとする。

 ひとつひとつは短く、情報量も少ないニュースを、少しずつ継続的にあびることで、私たちは「外国人」を根拠もなく危険視する見方と、警察や入管といった国家機関が「われわれ」(ってだれだ?)にとって有益な働きをしているかのような幻想をなんとなく持たされていくのではないか。

 こんなふうにして、われわれは「外国人」を他者化した見方を強化していってしまうのだろうが、ここできちんと他者化すべきなのは、警察とか入管とかでしょう。