【訂正】
児玉晃一弁護士より、この件は入管の責任ではなく、国保の加入資格について市区町村が解釈を誤っているのだと思いますとの指摘をいただきました。
児玉弁護士が関与しただけでも、自治体が誤りを認めて加入できた事例が3例あるとのことです。
途中から医療活動ビザに切り替え、国民健康保険受給資格を否定された方、処分撤回されました。 | 代々木上原の弁護士 マイルストーン総合法律事務所のブログ(2016-04-05 12:53:06)
入国後に医療活動ビザに切り替えた方、またも国民健康保険拒否→一転、認められました。 | 代々木上原の弁護士 マイルストーン総合法律事務所のブログ(2016-12-28 17:27:22)
3例目:入国後しばらくして医療活動ビザに切り替え、国民健康保険受給資格を否定された方、意見書作成したら加入が認められました。|koichi_kodama|note(2020年12月21日 14:51)
以下、リンクした1つめの記事から引用します。
私の方で調べたところ、国民健康保険法施行規則では、医療目的で上陸した方については確かに受給資格が認められませんが、条文を素直に読めば、あくまで上陸当初からに限定され、途中から変更した場合には当てはまらないと考えられました。
そこで、以下の意見書を作成し、役所に持って行ってもらったところ、その成果かどうかはわかりませんが、役所側も再考し、処分が撤回されたとの連絡を頂きました。
引用元の記事では児玉弁護士の提出した意見書も掲載されています。
下記のAさんも、上陸当初から医療目的の特定活動の在留資格であったわけではなく、在留特別許可でこれを所得したわけなので、やはり国民健康保険の受給資格は認められるべきということなのだと思われます。
したがって、以下の私の記事において、Aさんが国保に加入できていないことを入管の責任として述べている点は誤りです。おわびして訂正いたします。
また、記事の誤りをご指摘・ご教示いただいた児玉弁護士にお礼を申し上げます。
(2022年12月31日, 22:58)
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人間の命と人生をもてあそぶにもほどがある。ぜひぜひ以下の記事を読んでほしい。
人間の尊厳は? 入管施設で「大腿骨壊死」のネパール人、在留特別許可出るも「寝たきり」のまま支援者に放り投げ - 弁護士ドットコム(2022年12月27日 16時52分)
「虐待」という言葉すら軽々しく感じてしまうほどの大村入管センターのすさまじい医療ネグレクト。それ自体も言葉をうしなうひどさなのだけど、もうひとつおどろくのが、以下の入管庁の対応である。
12月22日、Aさんに在留特別許可が下りた。入管庁が出したのは、支援者が期待していた定住者ビザではなく、医療特活だった。介護施設から大村入管に移送されたAさんは、在留カードを得たのち、福岡県内の病院へと向かったが、このとき思わぬことが判明した。
「支援者がAさんの国民健康保険(国保)を申請するため、すぐに自治体に行きましたが、担当者から『国保は出せません』と言われました。在留資格が出たとはいえ、国保が下りなければ、医療費が全額かかる仮放免と変わりません。
これまで入管庁の担当者とは、十数回、電話で話し合う機会があり、信頼を寄せていた部分もありましたが、ふたを開けると、この医療特活では国保も取れないことがわかったのです。完全に騙された、という思いです。3割どころか、10割の負担をどうすればいいのか。体が震えます」
[カギカッコ内は支援者の柚之原寛史牧師の言葉]
法務大臣による在留特別許可が出たものの、入管が出した在留資格の種別では、Aさんは国民健康保険にも入れず、生活保護も受けられない。Aさんの治療には高額な医療費がかかるが、全額自己負担でまかなうしかなくなってしまう。柚之原さんは「騙された」と語っているが、この入管庁の措置にはやはり悪意を感じずにはいられない。
よく言われるように、退去強制処分や在留資格の付与について、入管庁はきわめて広い裁量権を行使している(してきた)。いったん退去強制処分をだした人に対して、これを取り消して在留資格を与えること、あるいはその場合に在留資格の種別をどれにするのかについて、いわば「なんとでもできる」のが入管だ。
だから、Aさんに対して、国民健康保険にスムーズに加入できる「定住者」等の在留資格を付与することだって、入管はできる。しかし、そうしなかった。入管庁は、国民健康保険や生活保護から排除される種別の在留資格を「あえて」「わざわざ」「選んで」付与したということなのだ。
現状は寝たきりで今後自力での歩行や排尿の機能を回復できるかどうかというAさんに対して、入管はその治療の助けとなる種別の在留資格を付与することもできた。ところが、入管庁が選んだのは、治療を受ける見込みを事実上たてようがないような在留資格をあえて与えるという仕打ちだったのである。Aさんをそのような状況にしたのは入管による医療ネグレクトであるにもかかわらず。
人間のやることとは思えない。そう言いたくなるところだが、入管庁の役人たちも自由な意思をもつ人間だからこそこうした残酷非道なことができるのだと言うべきだろう。
ところで、入管がAさんに付与した「医療限定の特定活動」という在留資格だが、「これでなければならなかった」というような制度上の必然性はなかったはずだ。というか、この「特定活動(医療滞在)」という在留資格は、そもそもその制度的な趣旨から考えて、Aさんに対して適用するのはそぐわない。
「特定活動(医療滞在)」の在留資格の対象として、入管庁がどのような人を想定しているのか。入管庁の以下のページをみてみれば、想像がつくと思う。
在留資格「特定活動」(医療滞在及びその同伴者) | 出入国在留管理庁
このページでは、「特定活動(医療滞在)」の在留資格を申請するさいにどのような資料が必要なのか、案内されている。下に画像でも示したが、5や6と番号がふられているところをみてほしい。入院先の病院がすでに決まっていることが前提で、その入院・治療の費用を支弁できるということの証明が求められている。
つまりどういうことかというと、この「特定活動(医療滞在)」というのは、いわゆる医療ツーリズムで日本に来る人を想定した在留資格なのだ。先進医療を受けに来日する人で、その費用は自身で支弁できなければならないというわけだから、相当に裕福な人が対象とされているのだということ。
そうした人たちの医療費を健康保険でまかなうとなると、それは保険制度へのフリーライド(ただ乗り)になってしまう。ということでこの在留資格では国民健康保険への加入が認められないということのようである。
しかし、Aさんは当然ながら医療ツーリズム目的で日本に来たのではない。じゃあ、なんで「特定活動(医療滞在)」なのか。そこに「これでなければならない」必然性などあるはずはない。
入管がこの在留資格を選んだのは、「ほかにやりようがなくて」「そうせざるをえなかった」ということではない。Aさんに対して、国民健康保険に入れず生活保護も受けられない「特定活動(医療滞在)」という在留資格を「あえて」「わざわざ」「選んで」付与したのだと言うしかないのだ。
この決定にかかわった入管の役人たちは、Aさんが必要な治療を受けようとするうえで、有利になる処分(「定住者」等の在留資格の付与)と、それがきわめて困難になる処分(「特定活動(医療滞在)」の付与)と、どちらかを選択する権力をもっていた。で、結果的にこの人たちは後者を選択した。この人たちは、Aさんの治療を助けるほうにも使えたはずの権限を、反対にAさんを必要な医療からはじき出すほうに使ったのである。入管の役人たちが主観的にどう思っているかは知らないが、客観的にみればそういうことだ。あなたたちは自由だったのであって、Aさんに対してあなたたちが自由におこなった仕打ちは、かならずあなたたち自身に返ってくるだろう。
さて、「特定活動(医療滞在)」という在留資格は、先にみたように医療ツーリズムで来日する人を想定したものであって、入院して治療するのに必要な期間にかぎって日本での在留を認めますよという性質のものだ。入管がAさんにこの在留資格を選んだのは、「定住や、治療の必要をこえての日本での在留は認めない」ようするに「用がすんだらさっさと帰国しろ」という意思を示したものとも想像する。
こうした発想は入管行政をつらぬいているものであって、そしてそれを支えているのは日本社会の世論の大きな部分をたしかに占めている排外主義的・民族差別的な主張・思考にほかならない。
日本社会の住人、とりわけそのなかで特権的な立場にある有権者もまた、Aさんに対する責任を問われているのだということは、確認しておきたい。「自己負担で治療するというならその間の在留は認めてやる」「だが用がすんだらさっさと帰国しろ」といわんばかりの入管のAさんに対する仕打ちを容認するのか、ということである。