2023年4月21日

ウィシュマさん事件についての滝澤三郎氏の発言について

 今日は衆議院法務委員会の入管法改定案の審議において、参考人質疑がおこなわれる。4人の参考人のうちひとりは、滝澤三郎氏という人物である。

 滝澤氏は法務省職員ののち、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)職員をつとめた経歴の持ち主で、元UNHCR職員の肩書で日本の難民政策・入管政策を擁護する発言をくりかえしている。

 この人は、難民政策に関するもろもろの発言もひどいものだらけだが、ウィシュマさん事件について、入管を擁護する発言をしており、これがとんでもなくひどいしろものである。こんな人間に公的な場で発言をする機会をあたえてよいのかと思うような発言であり、国会審議での参考人としての適格性に大きな疑問をいだかざるをえない。

 以下に書き起こした発言は、2021年8月14日に放送された「日経プラス9サタデー」(BS7チャンネル)という番組でのものである。滝澤は、指宿昭一弁護士、木下洋一氏とともにコメンテーターとして出演している。

滝澤:[名古屋入管局長らへの処分が軽すぎるとの指宿氏の発言を受けて]いやね、僕ね、(1)こういう一点、一つのイベント、いろんなけしからん発言も含めてね、それをとらまえて入管全体を評価するとかね、また日本の入管政策全体をおかしくするっていう、その発想に非常に違和感がある。一部をもって全体を判断してはいけないんですよ。

滝澤:[監視カメラの映像を公開した方がよいのではないかという司会者の発言を受けて]そう思いますよ。いずれ出てくると思いますよ、それは。だからね、これは入管庁も思い切って出せばいいんですよ。こんなことで無駄な時間をついやす必要はまったくないです。そのうえで、何が(2)本当の問題なのか、この、ウィシュマさんだけの問題なのか、それともたとえばね、(3)そもそも彼女は帰るべき存在だったんですよ、日本にいてはならない存在だったんですね。そういう人がいっぱいいる。強制送還のために収容されたのに長期にいるのはよくない、解放せよと。解放するとまた逃げちゃうんですよ。そういう問題、いわば国の安全の問題がまったく無視されて、ウィシュマさんのビデオ、それだけで日本中がさわいでいる、きわめておかしいなと、(4)もっと大きな点から、本当の問題はなにかという。外国人、とくに不法に存在する外国人の権利と、社会の、国の権利をどうやってバランスさせるか、両立させるかというところに本当の問題があるんですね。

 以上の引用箇所、下線を引いたところについて。

(1)→人が死んでいるのに「一点」「一つのイベント」「一部」と言ってこれを矮小化しようとするセンスにおどろく。「全体」からみてたいしたことではないのだ、と。

(3)→「帰るべき存在だった」という言い方も、いかにもひどい。「帰るべき存在」「日本にいてはならない存在」だったのに帰らなかったから死んだのだ、本人のせいなのだと言わんばかり。ウィシュマさんに帰責することで被害を矮小化し、もって入管を免責しようという発言で、下劣きわまりない。

(2)(4)→スリランカ人がひとり死んだぐらい「本当の問題」ではない、「もっと大きな点」から大局的に考えるべきだという、これも被害を矮小化するロジック。


  国の施設で人が亡くなったということ、それも見殺しと言えるような経緯で死にいたらしめたということについて、滝澤氏は露骨にこれを軽視する発言をしていることにおどろく。こんな人物を参考人としてまねいて、国会の「品位」はだいじょうぶなんでしょうか。

 この番組でのは2021年の改悪入管法案が反対世論の高まりのなか廃案となったあとのものだが、この法案を通そうとすることがいかに人権の尊重という課題とあいいれないものなのか、如実にあらわれている。

 最後についでに、おなじ番組からこの滝澤という人物のヘイトスピーチとも言うべき発言をひいておく。


滝澤:それからもうひとつ強調したいのは、現行の法律では、殺人犯であってもね、難民申請すれば帰せないんですよ。これがおかしい、これ完全におかしいんですね。

指宿:おかしいですか。殺人犯はちゃんと刑法で処罰すればいいんですよ。で、それとは別の話ですよ。殺人罪は殺人罪で処罰するのと別の話で、なんで強制送還できなかったらおかしいんですか。

滝澤:まさに国家の、社会の不安感ですよ。えっ、日本に行ったら殺人してもずっと日本にいられる。収容解かれていずれは日本に永住するって、それでいいの? まさにこれはね、聞いてるみなさんに聞きたいですよ。

指宿:あのね、そこだけを問題にするにはおかしいと思うな。


 言うまでもなく、殺人犯であっても難民申請者は難民申請者である。指宿弁護士が反論しているとおり、「殺人犯はちゃんと刑法で処罰すればいい」。難民認定審査は、難民該当性があるのかどうかの審査であって、申請者の犯罪歴とは関係なく手続きが保障されるべきものだ。犯罪歴があるから審査中であっても強制送還してもよいなどという理屈は、成り立ちようがない。

 看過できないのは、滝澤はあたかも難民申請者が危険であるかのような印象付けをおこなっていることである。「殺人犯」などという非常に極端な想定をおこなって、複数回の難民申請者がみな危険人物であるかのようにいうのは、きわめて悪質な差別扇動である。滝澤氏は「まさに国家の、社会の不安感ですよ」などとほざいているが、難民申請をする外国人を危険視し、「社会の不安感」をあおろうとしているのは滝澤である。

 滝澤がやっているのは、特定の属性もつ集団について、まるでその人たちが国家・社会の安全・安心をおびやかす存在であるかのような宣伝をおこない、これによって公権力の行使を正当化しようとするものだ。まさに排外主義と言うべきで、こういう人物に発言の機会を提供するメディアの責任も問われるのではないか。



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