2021年5月8日

だれが上映を中止に追い込んだのか? 警察と右翼の共犯関係について


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 8日から神奈川県厚木市の「あつぎのえいがかんkiki」で上映される予定だった映画『狼をさがして』が、上映中止に追い込まれた。


【重要】『狼をさがして』上映中止のお知らせ | あつぎのえいがかんkiki


 劇場のウェブサイトに当初掲載されていた「『狼をさがして』上映中止の経緯」という文書(なぜか削除されていて現在は読めない)では、経緯がつぎのように説明されていた。



今回の上映中止の経緯についてご報告致します。

4/30に神奈川県厚木警察署より、右翼団体から道路使用許可の申請があり5/8と5/9の2日間、劇場のまわりで街宣車数十台で街宣活動を行う、とのご連絡がございました。

その後、配給会社太秦様にご相談させていただき、

  1. 騒音等で近隣住民や隣接している各店舗様にご迷惑をおかけすることは誠に心苦しい。
  2. 見物人が密となり、新型コロナウイルス感染拡大が懸念される。

両社とも、上記の件を危惧し、太秦様の了解のもと上映を中止させていただく運びとなりました。

 



 この「経緯」をみるかぎり、たんに右翼による妨害で上映が中止に追い込まれたということではないようにも思える。「厚木警察署が、右翼の威力をちらかせて上映中止をうながした」と言いきれるまでの根拠はないにしても、警察がここではたしている役割は無視できないのではないだろうか。両者の共犯関係と言うべきものがあるのではないか。


 厚木警察署と劇場のあいだで具体的にどのようなやりとりがあったのか、上記の文書で説明されている以上の事実は、わからない。ただ、かりに、警察が劇場側に「右翼が妨害にくるぞ」という事実だけをつたえ、それを傍観・容認する姿勢をみせたのだとすれば、それは警察が右翼を道具に使って劇場を恫喝しているのとかわらない。そこまであからさまではなかったとしても、違法な妨害があった場合に警察は断固としてとりしまるつもりだという意思を明確に示さなければ、劇場側としては上映のリスクを重く考えざるをえないであろう。


 この厚木の件ではどうだったのか、はっきりしたことはわからないにせよ、こうした場合に、警察は劇場側を恫喝することが可能な立場にあるということは、確認しておきたい。そして実際、警察がそうした行動をしてきた前例がたくさんあるのも事実だ。


 6,7年前、わたしが関東にいたころ、皇居のはしっこをかするようなコースでのデモを警察署に届け出に行ったことがあった。このとき、警察官(丸の内警察署でした)は、コースを変更するようにしつこく要求してきたのだが、その理由が「右翼がさわいでデモ参加者が危険にさらされるかもしれないから」というものだった。いや、こちらとしてはデモコースの詳細を事前に公表するつもりはないので、きみらがわざわざ教えないかぎり右翼がそれを知ることはないのですけどね。


 最終的に私たちは当初の予定していたコースでの届け出を押しとおしたのだけど、警察官が「右翼がね、来るかもしれないからね」などとしつこく言ってきて、やたらと時間がかかったのをおぼえている。


 警察はデモや表現行為をコントロールしようとするために、このように右翼の暴力をちらつかせるだけではない。右翼に実際に暴力をふるわせるということすらしてきた。


 2017年11月には、自衛隊立川基地での航空祭に抗議行動していた立川自衛隊監視テント村の車が右翼7~8名の襲撃を受け、フロントガラスやサイドミラーなどを破壊されるという事件があった。このとき、10名ほどの私服公安警官がおり、さらに立川警察署の制服警官も10名ほどかけつけたが、1時間にわたって右翼の暴力行為を制止しようもせず放置していたという。


立川テント村宣伝カーへの右翼の襲撃を許さない  抗議声明とカンパのお願い - ?? OUT!

https://twitter.com/orandger/status/933589711179808769


 この事件の1年前には、東京都武蔵野市でおこなわれた天皇制に反対するデモが、3~40人の右翼に襲われるという事件が起きている。デモ参加者に負傷者が出て、デモを先導する車のフロントガラス等が破壊されるなどの被害があった。襲撃は500人ほどの機動隊員が「警備」するなか堂々とおこなわれ、右翼の逮捕者はすくなくともこの日にはでていないのだという。


東京新聞 16年11月23日朝刊 - ?? OUT!


 これらの襲撃において、警察と右翼の共犯関係をはあきらかだ。実行犯は右翼だが、主犯は警察である。官(警察)が民間(右翼)に業務をアウトソーシングしたわけである。


 これらの例にかぎらず、右翼の暴力・テロ行為を警察がしばしば黙認してきたということは、よく知られていることがらでもある。とりわけ、ときに国家や世間とのあつれきを生じさせるような表現行為にかかわってきた者にとって、警察が右翼の乱暴狼藉をスルーし、そのことで暴力を代行させることすらしてきたことは、周知の事実である。そうした文脈において、右翼の街宣予定の情報を事前に劇場側につたえたという厚木警察署の行為を理解する必要があるのではないか。


 朝日新聞は、厚木の上映中止についてつぎのように報じている。


 [配給会社の]太秦と市によると、同館が入る建物には公共施設もあり、市や警察は上映を前提に警備を申し出た。しかし同館と太秦が協議し、他店舗への説明や映画館スタッフの負担を考慮して中止を決めたという。太秦の小林三四郎代表は「中止に追い込まれることに忸怩(じくじ)たる思いはある。ふんばれよ、と言える態勢がなかった」と話した。

[右翼団体の街宣予定受け ドキュメンタリー映画上映中止:朝日新聞デジタル(2021年5月6日 18時10分)] 


 警察は「上映を前提に警備を申し出た」というのだが、かりに警察官が口先ではそのようなことを言ったのだとしても、この組織が実際におこなってきた行動を知っていれば、そんな言葉を真に受けられるわけがないのではないか。


 上の新聞報道の見出しは「右翼団体の街宣予定受け ドキュメンタリー映画上映中止」となっている。はっきりと見えている現象としてはそのとおりなのだろうが、右翼だけを問題にしてすむこととは思えない。右翼の暴力行為を許容し、あるいはときに暴力行為の担い手としての右翼を飼いならし利用してきたのはだれなのか、問われるべきだと思う。



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