今日、政府は入管法の改定案を閣議決定したとのこと。これを受けて、以下のような報道がでている。
国外退去の外国人、施設外生活が可能に 入管法改正案を閣議決定 | 毎日新聞 2021/2/19 08:53(最終更新 2/19 08:53)
入管法改正案を閣議決定 収容施設外での生活を可能に:朝日新聞デジタル 2021年2月19日 11時46分
この2つの記事とも、政府案の「監理措置」という制度が収容施設外での生活を可能にするものであるという見出しをつけている。政府の言い分をそのまま記事の見出しにしたということだろうが、しかし、「監理措置」についてのこの認識は正しくない。
毎日新聞の記事では、「監理措置」について、つぎのように説明している。
政府は19日の閣議で、在留資格がなく国外退去処分になった外国人が、入管施設に長期間収容される問題の解消に向けた入管法改正案を決定した。送還まで施設に収容する同法の原則を見直し、施設外で生活できる「監理措置」を創設する。(中略)
監理措置は、逃亡の恐れがないことを前提に、親族や知人、支援者らを「監理人」に選任し、対象者の生活状況の報告を義務付けることで社会での生活を可能にする制度。逃亡には1年以下の懲役などの罰則を設ける。審判中に限って就労も認める。現在も健康上の理由などから一時的に収容を解く「仮放免」はあるが、許可基準や運用が不透明とされていた。
引用したところの最後でも述べられているとおり、収容を解く制度としては、現行法においても「仮放免」というものがある。この「仮放免」の運用によって、収容を解かれて施設外で生活している人がすでにいる。だから、かりに政府案がとおって「監理措置」が創設されたとしても、これによって施設外での生活が可能になるということではない。
つまり、現行法でも可能なことをするために、政府はわざわざ法律を変えますと言っているわけだ。すでにある制度をなぜ使わないのか、ということを、報道にたずさわるかたがたはぜひ政府に問いただしてほしい。毎日新聞の記事では、従来からある仮放免は「許可基準や運用が不透明とされていた許可基準や運用が不透明とされていた」と言うが、これではまったく説明にならない。それならば仮放免を申請する人に入管が許可基準や運用を明示すればよいだけの話であり、「監理措置」なるあらたな制度が必要な理由にはならない。
ちなみに、従来は日本政府自身、仮放免制度を柔軟に活用することで長期収容を回避するように取り組んでいるのだということを、くりかえし表明してきた1。たとえば、2011年7月には、国連拷問禁止委員会の「申請が却下されたあるいは未決定の庇護申請者の収容の長さについての懸念に対処するためにとった措置につき説明されたい」との質問に対し、日本政府はつぎのように回答している。
入管法上,難民認定申請中の者の送還は禁止されているところ,収容中の難民認定申請や,難民認定申請を繰り返し行う場合などにより,近年,収容が長期化する傾向にあることを踏まえて,2010年7月から,退去強制令書が発付された後,相当の期間を経過しても送還に至っていない被収容者については,仮放免の請求の有無にかかわらず,入国者収容所長又は主任審査官が一定期間ごとにその仮放免の必要性や相当性を検証・検討の上,その結果を踏まえ,被収容者の個々の事情に応じて仮放免を弾力的に活用し,収容の長期化をできるだけ回避するよう取り組んでいることから,長期収容者は,減少傾向にある。(太字による協調は引用者)
仮放免を弾力的に活用することで収容長期化を回避するように取り組んでいるのだと、政府ははっきり言っている。国連機関に対して公式にである。今回の「監理措置」の創設うんぬんという提案は、こうした従来の政府の立場と整合していない。
実際のところ、上記のような政府の公式表明とはうらはらに、入管は収容長期化の回避に取り組んでこなかったのである。つまり、仮放免制度を柔軟に活用すると言いながら、そうしてこなかったからこそ、こんにちの収容長期化問題が生じているということが言える。
ところが、毎日新聞記事では、こうした入管の制度運用についての情報・知識を残念ながら欠いているために、長期収容されている外国人の側にのみ一方的に収容長期化の原因を帰着させるような書き方になってしまっている。
非正規滞在の外国人は、国外退去とするか否かを決める審判から送還までの間、入管施設に原則無期限で収容される。審判で国外退去となった外国人は、自ら出国するか、強制的に送還される。ただ、日本に家族がいるなどとして帰国を拒んだり、難民認定申請を繰り返したりする例が相次ぎ、収容が長期化している。(太字による協調は引用者)
外国人が帰国をこばむから収容が長期化するのだということのみ述べられ、入管の制度運用が収容長期化をまねいているという、もう一方の側面は、完全に消し去られている。これでは、フェアな報道とは言えないだろう。
「監理措置」がほんとうに政府の言うように長期収容問題の解消にむけての制度と言えるのか。これについても、批判的に考察する必要がある。
弁護士の指宿昭一氏は、「監理措置」制度について、つぎのように述べている。
「監理措置」制度は、仮放免を厳格化し、監理人がいなければ収容が解かれない制度になると思われます。監理人を通じて収容が停止された外国人を管理するシステムです。監理人の選定システムや監理を怠った場合監理人の責任によっては、現在の仮放免制度よりも相当に厳しい管理制度になります。しかも、監理措置は原則2回目までに限定するとのことです。
「3か月程度の金銭支援」も検討などと言っていますが、実現可能性は低いでと思われます。仮に実現しても、3ケ月経過後は飢え死にしろというのでしょうか? 収容されていない期間は、就労を可能にすべきであり、それで足ります。
こうしてみると、収容長期化の解消を目的に政府が「監理措置」を提案しているとはとうてい思えない。
私は前回の記事で、「監理措置」制度によって長期収容問題が改善することはありえないということを述べている。こちらも、よかったらご覧になってください。
追記(2月21日 17:08)
私が上に書いたことは、政府案の「監理措置」制度について、その内容にまでふみこんで批判しているものではありません。「監理措置」が創設された場合に、これによって収容施設外での生活が可能になるのだという一部のマスコミ報道は、ミスリードですよということを指摘しているにすぎません。
しかし、この「監理措置」制度は、収容長期化問題の解決につながらないばかりか、従来の仮放免制度にはない、大変に危険な要素があるようです。それについては、以下の2つの記事などが参考になります。
くわしくはリンク先の記事をみてほしいですが、とくに「監理措置」で収容を解かれた人が就労した場合に刑事罰を科されること、また、監理人も被監理者の動静を入管に報告しなかった場合などに処罰の対象になることなどがもりこまれているのは、非常に問題です。政府の入管法改定案は、廃案しかないという思いをあらたにしました。
さて、それにしても、まさにこれこそ政府・入管当局が仕掛けてきていることの結果にほかならないのですが、いま法改定・制度変更について議論せざるをえないということ自体が、腹立たしいものです。仮放免者は、就労を禁止され、国民健康保険などの社会保障からも排除されて生活しています。そこにこのコロナ禍でますます困窮している人が多数います。また、入管はこのコロナ禍にあっても長期収容を継続しており、東京入管の収容場ではコロナのクラスタが発生しています。
この人たちの人権と命をまもるためにできること、しなければならないことは、現行の制度のもとでもたくさんあります。すでにある仮放免制度を柔軟に活用することで、長期の被収容者の拘束を解くことはできます。さらに、仮放免されている人の在留を正規化することも、すでにある在留特別許可や難民認定制度を適切に運用することによって可能です。
こうした現行制度のもとですぐにでも着手可能である、また必要でもあるもろもろの施策が、法改定・制度変更についての議論に多くの人の時間と関心がさかれるなかで、検討をあとまわしにされている。その点でも、政府の入管法改定案は廃案に追い込むこと、その制度変更のくわだてを早期に断念させることが必要であると考えます。
注
1: 以下の記事参照。仮放免者の会(PRAJ): 入管にとって長期収容の目的はなにか?(2018年6月27日)
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