2021年2月11日

改悪入管法案について――あまくないアメ玉


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  改定入管法案、近いうちに国会に提出されるようだ。

 入管庁がリークしたと思われる内容の報道が、昨日、産経新聞と日本テレビのサイトにあいついで出ている。



 政府が改定しようとしているところで重要なのは、つぎの5点である。


(1)難民申請中の送還を禁じる規定に例外を設けること(3回目以降の難民申請を送還できるようにすること)。
(2)送還を拒否する行為に刑罰を科すこと。
(3)仮放免中の逃亡に刑罰を科すこと。
(4)入管の認める支援団体や弁護士による監督を条件に収容を解く「監理措置」の創設。
(5)難民認定には至らないものの母国が紛争中で帰国できない人などに在留資格を認める「補完的保護対象者」の新設。


 (1)(2)(3)は、強制送還をいま以上に強引にすすめるための改定(改悪)であって、絶対に許容できない。ただ、今回は、これらの点には立ち入らない。

 では、(4)(5)はどうか? これらは、一見したところ、難民申請者や入管から退去の対象とされる外国人の人権状況を改善させるものにもみえる。(4)は、収容を解く制度をあらたにもうけるということだから、これによって長期収容が減ることが期待できるよう、思えなくもない。(5)も、母国で迫害されるおそれのあるひとが今よりもっと保護されるようになる制度のようにみえる。

 しかし、「監理措置」制度によって長期収容問題が改善することも、「補完的保護」によって難民申請者の庇護が拡大することも、ありえない。というのも、この法案を提出しようとしている政府がそれを意図していないからである。

 収容を解く制度として、すでに「仮放免」というものががある。また、難民認定にまではいたらないものの人道配慮として在留を認める措置として、法務大臣による在留特別許可というものが、すでにある。つまり、(4)や(5)は、現行の入管法のもとでも十分にできることをするために、わざわざ法改正して新しい制度を作りますと言っているにすぎないのである。政府は、長期収容問題を解決するというものとはべつの意図で(4)(5)を提案しているのはあきらかであるから、かりに(4)(5)が創設されたところでこれらを長期収容問題を解決するために活用することは考えられないのである。

 このあたりのことは、『人民新聞』に昨年11月に寄稿した以下の記事でも述べているので、引用しておきたい。


(ここから引用)

 政府がいまくわだてている入管法改定の大義名分は、収容長期化問題への対策である。政府あるいは入管当局がこれに本気で取り組もうとするならば、その有効な方法が何かは、実ははっきりしている。応急措置としては、収容が長期になった被収容者を仮放免許可によって出所させていくことだ。
 さらにより根本的な解決のためには、退令発付を受けて送還対象になっているけれども帰国できない深刻な事情のある人たちの在留を広範に認めていくことも、検討されるべきだ。すなわち、現在きわめて厳しく運用されている在留特別許可の基準緩和、そして難民認定の審査のあり方の正常化である。これらはいずれも現行法のもとでも可能である。
 ところが、政府は現行の仮放免制度を活用するかわりに、(4)の「監理措置」を新たにもうけることを企んでいる。また、難民やこれに準ずる人の庇護に活用しうる難民認定と在留特別許可の運用見直しを検討するかわりに、(5)の「補完的保護対象者」の新設も法案に盛りこもうとしている。
 これらは、新奇にみえる制度改変案を粉飾的に打ち出すことで、現行法の枠組みのなかでも可能な方策の検討を回避しようとするものにすぎない。
 しかし、こうして問題解決が先送りされる間にも、被収容者たちは日々命をけずられ、仮放免者たちも、コロナ禍のなかこの1日を生きのびられるかどうかという困難をしいられている。

(引用ここまで) 



 (4)の「監理措置」の創設、および(5)の「補完的保護対象者」の新設は、野党や入管行政に批判的な世論を懐柔するためのアメ玉のようなものと考えるほかない。アメ玉と言っても、やる気になれば現行法でもなんの支障もなくできることを法律かえてやりますと言っているだけのことだから、口に入れてもあまくはないアメ玉だ。それどころか、政府はそもそも長期収容の解消も難民保護の拡大も「やる気」がないからこそ、こういう人をなめきった提案をしてきていると言うべきである。

 したがって、(1)(2)(3)に反対する以上、(4)(5)についても検討・議論する余地はない。今回の入管法改定案については、妥協・修正の余地はいっさいない。廃案あるのみである。まずもって必要なのは、くりかえすが、法改定ではなく、在留特別許可の基準緩和、そして難民認定の審査のあり方の正常化だ。現行法のもとで可能なことに取り組むところから、はじめるべきなのである。

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