2024年11月10日

支援者を人権侵害の共犯者にする 監理措置制度のやばさ

 

 昨年(2023年)に成立した改悪入管法が6月から施行されています。これにともない、「監理措置」という新たな制度の運用が始まっています。

 しだいに見えてきたのは、この監理措置が、監理措置を適用される外国人(「被監理者」と呼ばれます)を支援する人を、入管の人権侵害の共犯者として取り込もうとする制度であるという点です。そのことは法律の条文を読んであきらかだったのですけれど*1、実際の運用がはじまって、それをますます確信しているところです。



新制度のねらいは送還強化

 この新しい制度が創設されたことで、収容を解除するための2つの制度が併存することになりました。従来からある仮放免制度と、新しくできた監理措置制度です。

 なぜ、すでに仮放免という制度があったのに、わざわざ新たな制度を作ったのか? その経緯をざっとふりかえっておきます。

 2016年ごろから、入管施設における収容の長期化が顕著になり、報道などを通して収容下での人権侵害の深刻化が広く知られ、問題にされるようになりました。入管行政や難民受け入れのあり方に対する世論の批判が高まるなかで、2019年の秋ごろから浮上してきたのが、監理措置制度の創設や難民申請者の強制送還を可能にする入管法改悪の動きでした。

 政府は入管法を変える名目として、収容の長期化を解消するためだということを言っていました。しかし、実際のねらいは、強制送還をもっと強力に進められるように入管の権限を強化することであったのは、改悪の内容(3回目以降の難民申請者の送還を可能にする、など)をみればあきらかでした。

 監理措置についても、おなじです。収容を解く措置としては、すでに仮放免という制度があったのであって、これを使って収容の長期化をふせぐことは十分に可能だし、じっさい入管は2010年代前半までは、仮放免を弾力的に活用することで収容長期化の回避に取り組んでいるのだと、国連の拷問禁止委員会などに対して述べていました*2。したがって、収容長期化を解消するために監理措置の創設が必要だ(った)という政府の説明はウソであって、むしろ「送還忌避者」を厳しく監視・管理し、確実に送還を実施するために新しい制度を作ったのだとみるべきです。

 この点は、法改悪の経緯とともに、監理措置が従来からある仮放免とどう違うのかという内容の面からもあきらかです。監理措置は、入管(主任審査官)が選任する「監理人」に、「被監理者」(監理措置を適用されて収容を解除される外国人)の生活状況等を監視・把握させ、入管への報告義務を課す(違反すれば、10万円以下の過料が科される)というものだからです*3。仮放免の身元保証人にはこうした責務は課されません。長期収容の解消のためではなく、収容を解除してもなお強力な監視・管理を可能にするために創設されたのが監理措置です。それは、以下の監理措置に反対する「呼びかけ文」でも明確に指摘されているとおりです。


 そもそもなぜ入管は監理措置制度を新設したのでしょうか?この制度は、入管が「送還忌避者」と呼ぶ帰国できない事情のある非正規滞在者たちを徹底的に管理することを目的としたものです。監理措置制度は、いわゆる「送還忌避者」を徹底して管理したうえで、無理やりに強制送還するための制度です。入管権力の下で民間人をその手先として報告義務を負わせ、確実に監視・監理し、併せて送還計画を立て、確実に送還を執行するための、入管の方針に組み込まれた制度であるということを私たちは認識しておかなければなりません。

人間破壊の「監理措置制度」反対!呼びかけ文 | 入管闘争市民連合



仮放免は重病人にのみ適用

 さて、前振りが長くなりましたが、問題は、6月の法施行以降この監理措置がどのように運用されているか、です。法改悪後も、仮放免も(若干の変更はありつつも)制度として維持されているので、収容解除のための2つの制度が併設されている、ということになります。

 仮放免・監理措置の2制度の関係について、大阪入管の審判部門に問い合わせてみたところ、つぎのような説明がありました。「今後は収容を解く場合は、基本的に監理措置のほうを使うことになる」「仮放免は例外的にしか認めないことになる」と。

 収容されている人たちも、職員から「仮放免は重病の人だけ」と言われ、収容を解かれたければ監理措置のほうを申請するよう、うながされているようです。

 ちなみに大阪入管では、監理措置の運用がスタートして、7月から10月までの4か月ぐらいで、少なくとも被収容者10人超が監理措置決定により出所しています。10人超というのは、収容されている人との面会活動で私が把握している数字(伝聞ふくめ)なので、実際はもう少し多いかもしれません。いっぽう、大阪入管の被収容者でこの間、監理措置を申請したけれど、「不決定」、つまり監理措置が認められなかった人は、私の知る限り1人だけ(この人は2回申請していずれも「不決定」)です。

 仮放免はどうかといえば、大阪の場合、職員が被収容者に監理措置のほうを申請するよう誘導していることもあり、申請自体が非常に少ないようですが、6月10日の法施行以後の申請で許可された例は、私の知るかぎりありません。

 関東の支援者に聞くと、東京では健康上の理由で仮放免が許可されている例はいくらかあるようです。しかし、いずれも仮放免後2週間といった短期間のうちに監理措置を申請するすることが許可の条件として付けられているとのことです。つまり、指定された短い期間に監理人を引き受けてくれる人を見つけ出し、監理措置を申請しないかぎり、仮放免を取り消して収容するぞと、いわば、おどしているわけです。

 改悪入管法が施行されて5か月ほどになりますが、仮放免は重病などごくごく例外的な場面でのみ、しかも期間を短く区切ってしか適用しない、という運用になっていることがわかります。



監理措置を申請できない人は収容が長期化する

 このような制度運用のもとでは、帰国できない被収容者が収容から解放される手段は、監理措置を申請する以外に事実上ない、ということになります。

 ところが、仮放免とくらべて監理措置は、申請のハードルが格段に高い。というか、監理人の負担は、仮放免の保証人のそれより格段に大きいため、被収容者が監理人の引き受け手をみつけることはむずかしいのです。

 その「監理人の負担」とは、被監理者を監視し、入管に対して罰則付きの届出・報告義務を負うということですから、たんに労力が大きいということではありません。監理人を引き受けると、入管の手先となって他人の生活状況や行動をスパイするという、良心的な人間であれば道徳的あるいは倫理的な葛藤を深くかかえこまざるをえないような行為をしいられるのです。

 仮放免の身元保証人であれば、家族親族や友人のほか、これまで支援者や弁護士がこれを引き受けることがめずらしくありませんでした。しかし、多くの支援者は、監理措置の監理人を引き受けることに躊躇(ちゅうちょ)しないわけにはいきません。さらに弁護士の場合、監理人を引き受ければ守秘義務違反に問われかねません。そもそも、国家権力である入管の手先として監視と密告をおこなう監理人の任務と、相互の信頼関係なくして成立しない支援とは、あいいれるものでありません。

 こうして、家族などが監理人を引き受けて監理措置申請をした被収容者はさほど長期になる前に収容を解かれることがあるいっぽうで、仮放免のほうを申請した被収容者は重病で収容にたえられないとみなされないかぎりこれを許可されず収容が長期化しつつあるというのが現況です。



支援者を人権侵害に加担させる仕組み

 この状況は、とくに入国しようとして空港で拘束された難民申請者などにとって、不条理きわまりないものです。保護を求めて来たのに監禁され、「解放されたければ、あなたを監視する役目の人間を探してきなさい」と要求されるのです。日本に来たばかりの人に、監理人を引き受けてくれるような人が日本にいるということは当然ながら非常にまれです。ところが、これを見つけなければ、いつか重病になって施設から放り出されるまで収容が続く、ということになるわけです。

 当人の苦悩は切実きわまりないものです。とれる手続きもないまま、なすすべもなく収容が長期化していく。長期化どころか、いつ出られるかわからない。収容が解かれることは、重病になるか死体になるか以外に見込めない。絶望的としか言いようのない状況です。

 こうした被収容者の苦悩をまえにして、私たちはどうしたらよいのでしょう?

 まず基本的な前提として、つぎの事実はふまえておく必要があると思います。すなわち、この状況をつくっているのは入管にほかならない、ということです。収容が長期化するのは、入管がそのような制度運用を選択している結果であって、これがもたらす人権侵害の責任は入管にあるということです。したがって、私たちがすべきこととしては、まずなにより、こうした制度運用を変えさせるよう入管に働きかけることが必須だと思います。重病になるまえに仮放免制度を活用して収容長期化を回避せよ、と。

 ただ、そうしているうちに、収容はつづき、収容されている当人の苦悩はますます深くなっていきます。そこでこう考える支援者が出てくるのは、当然と言えば当然かもしれません。「自分が監理人を引き受けて、この人が監理措置申請するのをお手伝いすれば、それが認められてこの人は収容の絶望からはとりあえず解放されるかもしれない」と。

 しかし、こうして支援者が監理人を引き受けてしまうのは、入管が進めようとしている監理措置の定着に手を貸すということであり、ひいては結果的に当事者の首をしめることになる行為であるということも確かです。

 ここに、監理措置という制度のおそろしさがあると思います。目の前で苦難にある人に対して、その苦難から逃れられるように自分の力を使って手助けしてあげようという行為が、外国人管理の制度に組み込まれ、結果的に外国人を抑圧・管理・追放する政策に加担させられることになるのです。



仮放免者への影響

 とりわけ危惧されるのは、監理措置が制度として定着していったときに、旧入管法のもとで退令仮放免されている3000人以上の人がどうなるのか、ということです。

 現在のところ、新入管法施行日の6月10日より前から仮放免されている人について、旧法のもとでの仮放免の効力が存続するというあつかいになっています。しかし、これはあくまでも「経過措置」としてのあつかいであって、この仮放免の効力がいつまで存続するかは、入管しだいです*4

 入管はいずれ旧法のもとでの仮放免者を監理措置に切り替えようとしてくるでしょう。原則として収容解除は監理措置でおこない、仮放免はあくまでも重病者に対する例外的な措置であるという位置づけで入管が制度を運用する以上、当然の話です。

 そもそも、「送還忌避者」と入管が呼ぶところの退令仮放免者らを送還強化によって減らすことが、昨年の入管法改悪の最大の目的であるわけです。入管は、仮放免者に対して、「次回は仮放免期間の更新を認めない」「監理人をみつけて、監理措置を申請してください」と通告し、次の出頭日までに監理措置を申請しない(できない)仮放免者を再収容していく、ということができるし、いずれやってくるでしょう。

 いまそれを入管がやっていないのは、たんにその準備がまだできていないと判断しているからにすぎません。そこにはさまざまな要素があるでしょうが、2021年の入管法改悪が市民の反対運動に直面して廃案に追い込まれたこと、23年にはこれとほぼ同じ内容の法案が強行採決により成立したものの広範で強力な反対運動があったことの影響は、けっして小さくないでしょう。入管の視点からすれば、仮放免者をつぎつぎと再収容して帰国に追い込んでいくということに着手すれば、入管法改悪のときのような反対運動を覚悟しなけばならない。そのことが、仮放免者の監理措置への切り替え・再収容に入管がふみきろうとするさいの抑止力になっているのは、まちがいありません。

 しかし、市民の強い抵抗を覚悟しなくてすむだろうと入管が判断すれば、旧法での仮放免者を一掃しようとしてくるでしょう。そのさいに、監理措置制度が支援者や市民からの理解をえられたとみなせるような状況になっていれば、入管は容易に仮放免者に監理措置への切り替えを要求できるはずです。入管庁は、あまり良心やプライドのないタイプの記者を使って『読売新聞』や『産経新聞』につぎのような論調の記事を書かせることでしょう。


「2023年の入管法改正で、長期収容問題を解消する目的で監理措置制度が創設された」

「ところが、不法滞在者を支援する一部の支援団体や弁護士がこれに反対している」

「改正法の施行日前から仮放免されていた者について、入管庁は法改正にともなう経過措置として従来どおりにあつかってきたが、改正法施行から●年経過した今、監理措置を申請してこれに切り替えるように求めている」

「監理人を引き受けて被監理者の住居や生活の支援をおこなう(立派な)支援者がいる一方で、この新しい制度に反対する一部の支援者や弁護士が、仮放免者の監理措置への切り替えに反対している」

「このため、監理人の引き受けてを見つけられず、監理措置申請をしない仮放免者が入管施設に収容される事態となっている」


 で、入管や難民、移民に関するヤフーニュースの記事のコメント欄には、こうした論調をコピーしたようなコメントが、あなたたち元記事ぜったい読んでないでしょと言いたくなるような文脈無視っぷりで大量につく、というところまで目にうかびます。

 支援者らへのバッシングはまあどうでもよいことですが、入管が監理措置制度をテコにして仮放免者に対して強制送還に向けた再収容に着手してくるということは想定しなければなりません。支援者が、監理措置制度を批判せず、これに承認をあたえてしまうのは、近い将来に予想されるそうした入管の動きに対し、道を開けて「どうぞどうぞ、ここを通ってください」と加担することにならないでしょうか。



「支援」だけでは足りない

 支援者が監理人を引き受けるのはいかなる場合でもダメなのかといえば、そこは一概に言えないかもしれません。しかし、これを引き受けることの是非とはべつに、監理措置制度に支援者が無批判であってよいのか、という問題はあると思います。

 まあ、監理人を引き受けるという選択をする支援者でも、この制度を手放しで肯定できるという人は、(たぶん)いないでしょう。問題の大きな制度だと認識しつつ、目の前の被収容者を救うためには、現実的にこの制度を使うしかないというジレンマを感じつつ、監理人を引き受けるのかもしれません。

 現在の入管の制度運用においては、仮放免を申請しても重病でなければ許可が出ません。目の前で苦しんでいる被収容者がいれば、この人が収容から解放されるには、監理措置を申請するしかないのだから、支援者としてはそのお手伝いをするしかないではないか。そう考えるのは、たしかに理解できます。

 しかし、こういう入管が現にとっている制度運用を前提にして、そのわくのなかでできる最善の選択はなにか、というふうに考えてしまうと、結局のところ入管の人権侵害をアシストする解答しか出てきようがありません。だって、監理措置なんて、徹頭徹尾、人権侵害の制度でしかないのだから。それを許容するのか、しないのか、というところは、結局のところ問われてくるのだろうと思います。

 入管の制度運用を変えさせることがやはり不可欠なのであって、監理措置にちゃんと反対しましょう、ということがこの長い文章の結論になります。「支援」だけでは足りなく、社会運動がなければならないということです。入管は長期収容するな、仮放免制度を使え。



注 

*1: 監理措置については、以下の過去記事で、新しい入管法の条文に言及しつつ、考察しています。

【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈1〉(2023年12月2日) 

【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈2〉(2023年12月6日) 

【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈3〉(2023年12月14日) 


*2: 以下の記事を参照。 

【改悪入管法案】「監理措置」は収容施設外での生活を可能にする制度ではない(2021年2月19日) 


*3: 監理措置制度において、監理人に課される「責務」の内容については、【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈3〉にまとめてあります。そのうえでこの監理措置を創設した入管のねらいを分析した部分を、同記事から引用しておきます。 

 従来の仮放免制度においても、入管は「動静監視」と称して、仮放免者の生活・行動を調査し把握しようとしてきました。この「動静監視」を民間人である監理人にも一部アウトソース(外部委託)しようというのが、監理措置制度であると言えるでしょう。監理人は被監理者をスパイする役割を負わされることになります。 

 被監理者にとってみれば、家族や友人、あるいは支援者や弁護士など、自分を支援する立場の人間をつうじて、自身の行動を監視・監督されるということです。自分にとって身近な存在、しかも自分に必要な生活上の資源や情報を提供してくれる者から見張られるとなれば、ある面では入国警備官に監視される以上にその監視の強度は高くなるでしょう。

  入管の視点からいえば、被監理者に対する支援者らの親密さや信頼関係を資源として利用することで、より強度の高い監視・管理をおこなおうというのが、監理措置制度を創設した意図としてあるでしょう。 ……


*4: 旧法のもとでの仮放免者に対するこうしたあつかいが、あくまでも「経過措置」であること、その経過措置による仮放免は「終了」することがあること、それが「終了」すれば各種申請については新法が適用されることが、出入国管理庁のサイトで述べられています。 

仮放免に関する各種申請 | 出入国在留管理庁

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