2022年12月18日

【番組の感想】クローズアップ現代「“入管”でなにが “ブラックボックス”の実態」(NHK、12月7日 19:30~放送)

 NHKのクローズアップ現代「“入管”でなにが “ブラックボックス”の実態」(12月7日 19:30~放送)、録画していたのをようやく視聴した。全体的にとてもよい番組だった。

「入管」でなにが “ブラックボックス”の実態 - NHK クローズアップ現代 全記録

 感想として3点ほど書きとめておきたい。


1.

 番組の最初で、名古屋入管に収容されていたウィシュマさんが亡くなるまでの過程が、監視カメラの映像をみた弁護士の証言などをもとに再現されていた。ウィシュマさんの命が入管職員らのいちじるしい人命軽視のすえにうばわれたということ、それは「過失」などというなまやさしいものではなく、見殺しと言うべきものだったのだということが、よくわかる放送だった。

 名古屋入管は食事をとれなくなって飢餓状態にあったウィシュマさんに、点滴治療を受けさせることなく放置した。救急車を呼んでしかるべき状況でそれをおこたった。やろうと思えば簡単にできることを「しなかった」ということだ。医療体制の不備やらなにやらのせいで「できなかった」ということとはちがう。収容している人の命や人権を軽んじていたから、死なせないためにすべきこと・できることを「しなかった」のだ。それが視聴者によく伝わるような番組づくりになっていると思った。

 さて、番組には、入管の収容施設での処遇を監視する「視察委員会」の元委員長で、ウィシュマさん事件を受けて法務大臣が設置した有識者会議(出入国在留管理官署の収容施設における医療体制の強化に関する有識者会議)のメンバーだった人も出演していた。それで、この有識者会議が提言した改善策が紹介されていたのだけど、番組で再現されていたウィシュマさんが亡くなる過程と照らし合わせてみると、その「改善策」とやらのマヌケぶりがよくわかった。

 有識者の提言した「改善策」というのは、たとえば「常勤医の確保」だとか「外部の医療機関との連携強化」といったものだ。でも、名古屋入管が点滴治療の必要な人にそれをせずにほったらかしにしたのは、「常勤医」がいなかったからでも、「外部の医療機関との連携」が不十分だったからでもない。救急車を呼ばなかったということについてもそうだ。当時の医療体制でも十分にできたはずのことを名古屋入管は「しなかった」のであって、それは人命を軽くあつかうような収容のしかたをしていたからにほかならない。

 もちろん、入管施設の医療体制を強化していくことそれ自体は、大事な課題ではあろう。でも、ウィシュマさんは入管職員らのいくつもの不作為の積み重ねによって見殺しにされたのであって、その事件を受けて有識者会議とやらが提言する「改善策」が、「常勤医の確保」や「外部の医療機関との連携強化」などだというのは、まとはずれにもほどがある。

 再発防止ということでまずなにより重要なのは、被収容者の生命・健康を守る責任をはたさず死なせた名古屋入管の幹部や職員らの刑事もふくめた責任をきちんと問うことであろう。ところが、警察・検察はいっこうに事件の捜査に着手しようとしなかったため、事件から8か月たった昨年11月、業を煮やした遺族が刑事告訴しなければならなかったのだ。これに対し、名古屋地検は今年6月「嫌疑なし」で不起訴とした。遺族は、当然これを不服として、検察審査会に申し立てをおこなっている。

 検察審査会に対し「起訴相当」との判断を求める署名活動もおこなわれているので、可能なかたはご協力ください。人間を施設に収容して自由をうばっている以上、入管には収容した人の生命・健康をまもる責任がある。それをおこたれば、施設の幹部や職員らはその責任を問われ、場合によっては刑事罰を科されることもあるのだという、ごくごく当たり前のことが通用しないのが、入管施設をめぐる現状なのだ。新たな犠牲者を今後もう出さないために、ウィシュマさんを見殺しにした者たちの刑事責任を問わなければならない。

キャンペーン ・ #JUSTICEFORWISHMA ウィシュマさんのご遺族による、検察審査会への審査申立を応援して下さい! ・ Change.org



2.

 番組では、かつて入管の幹部までつとめあげたという人が匿名を条件にカメラの前で証言する映像が放送された。なかなか興味深い内容だった。

 まず、この元入管職員の人は、入管が収容という措置を帰国強要の手段としてもちいていることを率直に語っている。


そういう場所に入れといて説得して観念させてそれで確実に帰すんです。そういうための施設なんです。


 収容された人に「こんなところにはいたくない」と思わせ、帰国へと追い込むための施設なのだということを、こうもあっけらかんと認めるのには、ちょっとおどろいた。自分たちがひどいことやってるという意識はあまりないのでしょうかね。

 もうひとつ興味深かったのは、つぎのくだり。


(在留を)認められない者についてはどういう扱いをすべきかみたいな、何かの道筋を見いだしていかなければ、長期収容がどんどんどんどんたまっていってしまう。

社会問題化しているような部分というのも放置するわけには本当にいきませんからね。入管なにやってるんですかって言われて終わりですよね。

そこは何か知恵を出し合って解決する方法をつくる時期にきているのではないかと思いますね。


 発言主の元入管幹部氏がどういう職務をになってきた人なのかわからないが、たとえば、収容や送還の現場をよく知っている職員が本音ではこのように考えているのは、まあありそうなことだなと思う。

 入管の立場からすれば、退去強制処分がすでに出ている人については、退去させる(送還する)のが役割である、と。しかし、そこに無理が生じていて、「長期収容がどんどんどんどんたまっていってしまう」のが現状である。入管職員として課せられている役割を忠実に果たそうとしても、それは現実的に不可能だし、人権侵害だとバッシングされるばかり。あくまでも退去させるのだというところに固執しているかぎり、袋小路から脱することはできない。「(在留を)認められない者について」送還一本やりではない「何かの道筋」「何か知恵を出し合って解決する方法」を考えないことには、もうどうにもならん、と。

 退去強制処分がすでに出ているからといって、何がなんでもこれを送還する以外にないのだとかたくなになるのではなく、べつの「道筋」「解決する方法」を模索すべきだという点には、私も同意する。というか、大賛成。

 しかし、番組によると、この元入管幹部氏は、「長期収容の問題を解決するには入管だけでは難しい」ということを言っているのだそう。ここは元幹部氏の肉声ではなく番組のナレーションで示されているところなので、本当にこのとおりに発言したのかどうかはわからないけれど、ちょっとこの言い方は無責任すぎませんか、と思った。

 そもそも長期収容問題がどうして生じたのかということを問わないわけにはいかない。長期収容は入管の政策や制度運用が作り出した問題なのだと言うほかない。ひとつには、難民として認定して在留を認めるべき人にそうしてこなかったこと。もうひとつは、退去強制手続きをあまりに厳格におこなってきて、人道配慮としての在留特別許可を十分に活用してこなかったこと。ようするに、迫害等の危険があったり、日本に家族がいたり国籍国に生活の基盤がもはやなかったりといった「帰国」しようにもそうできない人の在留を認めずに退去強制処分を濫発してきたということ。そうした帰るに帰れない人たちは2015年時点で3000人以上にふくらんだが、当時これをくりかえしの収容・長期間の収容によって徹底して帰国に追い込もうという強硬方針に舵をきったのは、ほかならぬ入管自身である。

 そのあたりの経緯は、手前みそにはなりますけれど、以下のパンフレットを仲間といっしょに作り、そこでくわしく書いています。関心のあるかたはダウンロードしてのぞいてみてください。

なぜ入管で人が死ぬのか | 入管闘争市民連合

 とにかく、長期収容というのはほかならぬ入管が「送還忌避者」(と入管が規定する人びと)を減らすためにとった手段にほかならない(「そういう場所に入れといて説得して観念させてそれで確実に帰すんです」!)。その意味で入管自身が長期収容問題の原因である。

 もちろん、そうした政策・制度運用をとることも、またそれをやめて別の「道筋」「解決する方法」を選ぶことも、入管という組織の内部だけで決められるものでないのだろう。その意味で、「長期収容の問題を解決するには入管だけでは難しい」というのはその通り。たとえば世論の動向も重要だろう。しかし、入管があるしかたで権力・権限を行使してきたことが長期収容の問題を引き起こしてきたということ、また、その行使のしかたしだいで同じ問題を解決することも可能なのだということ(難民認定審査の適正化と在留特別許可基準の見直しによって、帰国できない理由のある人の在留を正規化していけば、長期収容などする必要はなくなる)は、見落とすわけにいかない。入管組織の人がその責任については何も言わずに「問題を解決するには入管だけでは難しい」とだけ言うのは、虫が良すぎではないですか、と思った。まずは入管がどのように制度を運用してきたのか、批判的にふりかえることに取り組むべきだ。



3.

 番組では、長期収容の生じる背景として2つのことをあげていた。

 ひとつは、収容の期限の定めがなく、また収容するに際して司法審査もないのだということ。これは現行の法制度がかかえる欠陥に関することである。

 もうひとつの背景として番組で示されていたのは、祖国に帰れない理由があるのだということだ。一方、入管は長期収容問題について、送還を拒否する者の存在がその原因なのだということをくりかえし主張してきた(この点も上記リンク先のパンフレットで具体的に説明している)。帰らない者の責任なのであって入管のせいではないという主張である。ところが、番組は、帰れない理由を具体的な事例にそくして示しながら、そうした理由をかかえる人の在留を認めずにあくまでも送還対象としてあつかおうとすることがはたして適切なのだろうかと、入管の制度運用のありかたに問いを投げ返すというものだった。どちらがていねいに、また誠実に議論をしようとしているのか、一目瞭然だと思った。


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