上川陽子法務大臣が3月5日の閣議後記者会見でおどろくべき発言をしている。
この会見の入管法の改定に関する質疑応答で、上川大臣はいくつか問題のある発言をしているが、ここでは、つぎの発言についてのみとりあげたい。
2点目の収容期間の上限を設けるということについてでありますが,収容期間の上限を設けますと,送還をかたくなに忌避し,収容期間の上限を経過した者全員の収容を解かざるを得なくなるということになります。また,収容を解かれることを期待しての送還忌避を誘発するおそれもあるということでありまして,適当ではないと考えたところでございます。
昨年、日本政府は国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会から、収容期間の上限を設定していない現行制度が国際人権規約違反であるとの指摘を受けている。こうした指摘が現在の政府の法案には反映されていないではないか、という記者の質問を受けての応答が、上に引用した大臣の発言である。
上川大臣の「収容期間の上限を設けますと,送還をかたくなに忌避し,収容期間の上限を経過した者全員の収容を解かざるを得なくなるということになります」という言葉については、なにを言っているのだ、全員の収容を解けばいいじゃないか、それが上限をもうけるということだろう、としか言いようがないが、問題はつぎの一文である。
大臣は、「[収容の上限をもうけると]収容を解かれることを期待しての送還忌避を誘発するおそれもあるということでありまして,適当ではないと考えたところでございます」と述べている。これはようするに、たとえば6か月なら6か月と収容期間の上限をもうけると、今の制度では送還に応じるはずの人が応じなくなってしまうから困ると言っているわけだ。上限が設定され、いつ収容所から出られるのかわかってしまうと、出国を強要するのにさしつかえが出てくるのだ、と。
この発言は、政府はこれまで無期限長期収容を出国強要の手段としてもちいてきたし、今後もそうするつもりなんだと、法務大臣みずからが公式にみとめたということだ。いつ収容から解放されるのかわからないという状況に人間を長期間おき、そうして苦痛を与えることで、相手の意思を変えさせようとする。そのためにあえて収容期間に上限を設定しないのだと法務大臣自身が、率直にみとめたのである。
まあ、そんなことは私もまえからわかってはいましたよ。入管施設に長期間収容されたことのある人も、おそらくみんな、収容が自分たちを「帰国」に追いこむための拷問であることは理解している。しかし、おどろいたのは、上川法務大臣がそのことをはっきりと正直に言明したという点である。これは、日本政府がこれまで建前としてきたことをひっくり返すものではないだろうか。
前々回の記事でも引用したが、国連拷問禁止委員会に対する日本政府の回答(2011年7月)をあらためて引いておきたい。
入管法上,難民認定申請中の者の送還は禁止されているところ,収容中の難民認定申請や,難民認定申請を繰り返し行う場合などにより,近年,収容が長期化する傾向にあることを踏まえて,2010年7月から,退去強制令書が発付された後,相当の期間を経過しても送還に至っていない被収容者については,仮放免の請求の有無にかかわらず,入国者収容所長又は主任審査官が一定期間ごとにその仮放免の必要性や相当性を検証・検討の上,その結果を踏まえ,被収容者の個々の事情に応じて仮放免を弾力的に活用し,収容の長期化をできるだけ回避するよう取り組んでいることから,長期収容者は,減少傾向にある。(太字による協調は引用者)
これが、収容長期化問題に関する日本政府の公式の立場であった1。
すなわち、政府は、
- 収容長期化は回避すべきである
- それは、仮放免の弾力的活用によって回避すべきである
ということを建前としてきたのである。
いわば「長期収容はわざとじゃないんです」「難民申請によって送還できなくなったりするために収容が長期“化”しちゃってるんです」というのがこれまでの日本政府のスタンスだったのだ。
ところが、法務大臣はこのたびこれをひっくり返して、開き直ってみせた。いつ出れるかわからない状態で長く収容することで、送還忌避者を出国に追いこめるんですよ、収容期限の上限きめたら帰る人が帰らなくなっちゃうじゃないですか、と。無期限長期収容をわざとやっていること、これを出国強要の手段として自覚的・戦略的にもちいているのだということを、大臣はぶっちゃけてくれた。
人を長いあいだとじこめて、希望をうばい、苦しみあたえる。痛いめにあわせることによって、相手の意志をコントロールし、その行動を変えようとする。無期限長期収容によって日本政府がやっているのは、それである。これを拷問と呼ぶのは、比喩でもなければ誇張でもない。だんじて人間に対してやってよい行為ではない。この出国に人を追いこむ手段としての収容は、送還までの「逃亡」を防止するための「身柄」の確保という、入管が法によってあたえられている権限の趣旨からも完全に逸脱している。
刑罰や教育、子どものしつけであっても、残虐と評される手段をもちいることはゆるされない。ましてや、退去強制(強制送還)は、刑罰でも教育でもない。いたずらに人を苦しめ、傷つけるような方法でしかこれを執行できないのなら、その執行を断念すべきなのだ。
今国会では、政府法案とはべつに、野党6党(立憲民主党、共産党、国民民主党、沖縄の風、れいわ新選組、社民党)も共同で、入管法改定案を難民保護法案とともに提出している。野党案では、収容について裁判官の判断を必要とするようにあらため、収容期間も最長で6か月としている。
入管の収容と送還をめぐる問題を考えるうえで、収容期間の上限をさだめるかどうかということは、決定的に重要な争点である。それは、拷問を送還のための手段としてもちいることを許容するのかしないのかということにほかならない。収容を他者を痛めつける手段にしないというのならば、法律で収容期間の上限をさだめることに反対する理由がないのだ。
政府は長期収容問題の解決を大義名分にして入管法改定案をうちだしながら、そこでも収容期間に上限をもうけることを回避している。さきにみた上川発言からもあきらかなとおり、これは拷問を手段とする送還政策を今後もつづけるということだ。こういった反人権と言うべき送還政策を一日も早く断念させるために、政府法案を廃案に追い込むことがその出発点になるはずだ。
注
1: 引用した日本政府の回答は、これと同趣旨の法務省入国管理局長通達「退去強制令書により収容する者の仮放免に関する検証等について」(2010年7月27日)にもとづいたものである。ところが、法務省入管局長は2015年9月18日に「退去強制令書により収容する者の仮放免措置に係る運用と動静監視について」と題する通達を出して、さきの2010年通達を廃止するとした。これを契機に、全国の入管施設で収容長期化傾向が急激にすすんだのである。
参考
日本弁護士連合会:入管収容について国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会の意見を真摯に受け止め、国際法を遵守するよう求める会長声明(2020年10月21日)
入管収容は「国際人権法違反」 国連が日本政府に是正勧告 | 週刊金曜日オンライン(西中誠一郎|2020年10月30日2:35PM)
「入管制度から切り離した難民保護」の新法案、野党が共同提案 | 毎日新聞 2021/2/18 21:41(最終更新 2/18 23:02)
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