2024年12月28日

【ドラマ感想】IRIS-アイリス-

 

IRIS-アイリス- | サンテレビ


 一話一話が「次どうなるの?」と気をもませる展開で、録画していた全28話をあっという間に見終えてしまった。

 最終話は謎を残す驚愕の終わり方で、「え? どういうこと?」とぽかんとしてしまったのだが、続編(アイリス2)があるのね。

 思いっきりかいつまんでまとめてしまえば、大韓民国の特殊機関(要人警護から諜報活動までおこなう)のメンバーが、朝鮮民主主義人民共和国のやはり特殊機関のメンバーとひょんなことから出会い、核兵器を使ったテロを阻止するために共闘するというお話。

 共和国の諜報員を演じるキム・ソヨンさんの演技がすばらしかった。キム・ソヨンさんといえば、「ペントハウス」(2020年制作)でのエキセントリックなソプラノ歌手の役が強烈だったけれど、愛情と悲しみ、使命感といった感情を静かに表現する演技が心にひびいた。イ・ビョンホンさん演じる主人公らと協力してソウルでの核テロを阻止したあと、共和国に戻るとつげるときの表情の変化とか、「ペントハウス」の悪役チョン・ソジンと同じ俳優さんが演じているのかとびっくりした。

 チョン・ジュノさん(若い!)は、親友だった主人公をうらぎることになる葛藤ぶくみの心情をたくみに演じていた。すでにこのころから、上手な役者さんだったんですね。

 ドラマが放送されたのは2009年ということだが、南北の対話と緊張緩和への期待が高まった時期なのだろうか。共和国の軍人・諜報員たちも悪魔化・非人間化されるのではなく、あたたかい感情をもつ、ひとりひとりが個性的な人間として描かれていたように思う。

 韓国で制作・放送されたドラマだが、敵は北ではないのだというメッセージが強くこめられているように感じた。 南北の諜報員らはいくつかの偶然がかさなって共闘することになるわけだけど、かれらが敵として対峙するのは「アイリス」と呼ばれる謎につつまれた秘密の組織だ。「アイリス」は、国家間の紛争や緊張関係によって利益をえている者たちによる組織であることが示唆される。だれがメンバーなのかは、組織内でも限定的にしか共有されないが、南北それぞれの国家機関にもその要員はもぐりこんでおり、南北の統一に向かおうとする動きを妨害する工作をおこなう。そのアイリスの秘密にせまり、その陰謀に対して南北の体制をこえた協働によって立ち向かう、というドラマだ。

 それはとても感動的なのだけど、日本人としてどういう立場からこれを鑑賞できるのだろうかと、考え込んでしまう。ドラマは、実在する個人や組織、国家とは無関係であるとの注意書きをつけて放送されるフィクション作品であるわけだけれど、「アイリス」はたんなる空想的な陰謀組織ではないわけです。それは陰謀であっても、現実に存在し実行されてきた陰謀なのだから。朝鮮半島を分断状況に置き、これによって利益をえてきた者たちは現に存在している。そもそもの南北分断の原因を作った侵略と植民地支配をおこなった日本は、現在もまさにその「アイリス」の一角としての挙動をしている。たとえば、ちょっとまえにもこういうニュースがあったとおり。


「終戦宣言」に日本難色 朝鮮戦争 韓国が提案 米は留保 | 沖縄タイムス+プラス(2021年11月7日 5:00)

 【ワシントン共同=高木良平】日米韓3カ国が先月ワシントンで開いた岸田政権発足後初の高官協議で、北朝鮮との信頼醸成措置として休戦状態の朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を望む韓国に対し、日本が「時期尚早」として難色を示したことが5日分かった。複数の外交筋が明らかにした。


 というわけで、ドラマをみて感動するのだけど、消費者として鑑賞してるだけですむのかというと、そういうわけにもいかないのである。


2024年12月17日

2024/12/27キャンドルアクション 大阪入管前で抗議の声を

  年末のキャンドルアクション、今年もやります。大阪入管前で抗議と被収容者への激励の声をあげます。

 以下は、呼びかけのチラシから。


2024キャンドルアクション

 今年は2024/12/28(土)から2025/01/05(日)まで、大阪入管はお休みです。

 その間被収容者は誰にも面会できず、家族にも会えない年末年始を過ごすことになります。難民や日本に家族がいるなどのやむを得ない事情のある人でも、いつまで収容されるのか、常に強制送還されるかもしれないという恐怖と絶望が常に付き纏います。

 そのため、家族友人はもちろん、支援者や市民からの応援の言葉、掛け声が何よりも希望なのです!激励の声を届けましょう!ぜひご参加ください!

2024/12/27(金)19:00~20:00
場所: 大阪入管前 ※途中参加途中退出ok
(最寄り駅: コスモスクエア駅)

主催: TRY~外国人労働者・難民と共に歩む会~


2024キャンドルアクションのチラシ


 このキャンドルアクション、今回で8年目になります。大阪入管で面会活動している団体や個人がいっしょに取り組んできた企画で、例年TRYさんが主催をになってくれています。

 最初にこの企画をおこなったのは、2017年の12月です。収容の長期化が非常に深刻だった時期です。参加を呼びかけた当時のチラシには、「大阪入管では、収容期間が2年、3年をこえても出所できないという、超長期収容が常態化してい」ることを指摘したうえで、つぎのように書いています。


 収容期間が2年や3年と長期化するのは、大阪入管が送還の見込みの立たない人の収容に固執しているからにほかなりません。送還のための施設でありながら、その見込みがないのにいたずらに監禁をつづけるのは、入管法での収容の位置づけから逸脱しており、事実上の懲罰・制裁を科すものといえます。また、長期収容は国家権力が恣意的に被収容者のの心身に苦痛を与えるものであり、拷問と言っても過言ではありません。

 大阪入管で長期間にわたって収容されている人々の多くは、難民であったり、日本に家族がいるといった理由で、帰国できない事情をかかえた人たちです。こういった人々を長期収容して在留の意思をくじき、帰国に追い込もうという現在の大阪入管の方針に対しては、収容されている当事者たちによる抗議も日々おこなわれています。被収容者たちに、外から励ましの声を届けましょう。


2017年のキャンドルアクションのチラシ


 帰国に追い込むために身体を拘束しつづけるということ。チラシでは大阪入管を問題にしていますが、こうした拷問としか言いようのない異常なやり方は、全国の入管でおこなわれていました。その結果として、入管での収容死が全国的にあいつぎました*1

 大阪入管では、死亡者こそ出なかったものの、2017年には、被収容者がのちに国に賠償を求め訴訟になった暴行事件が2つありました*2。長期収容が被収容者たちの抗議を頻発させ、これを暴力の行使と威嚇によっておさえこむという大阪入管の手法が、これらの事件を生み出したのだと言えます。


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 こうして長期収容への抗議として始めたのがキャンドルアクションでしたが、8年目の今年は当時と状況が変わっているのも事実です。

 現在、大阪入管では6か月をこえる長期の被収容者はほとんどいません。2017年当時は、2年をこえるような超長期収容がめずらしくもなかったのと比べると、大きく違います。被収容者のうち、在留を希望している人の数も、いまは10名もいない。

 これが、わざわざ入管前での抗議行動をやる必要性が小さくなっているということならばうれしいのですが、残念ながらそうでもないのです。むしろ、今年こそキャンドルアクションをやらなければならないという思いが、私は強いです。それは6月から施行されている改悪入管法のせいです。


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 入管法の改悪にともない、監理措置という新しい制度が創設されました。

 監理措置というのは入管の収容に関する制度ですが、簡単に言えば、家族や友人・支援者などを「監理人」という監視役につけるかわりに、収容を解除して入管施設外での生活を許可するという措置です。

 この制度がいかにやばい問題をふくんでいるかについては、以下の記事などで書いていますが、今回はそこには立ち入りません。

宇宙広場で考える: 支援者を人権侵害の共犯者にする 監理措置制度のやばさ(2024年11月10日)

 とにかく、この新しい制度の実績をつくって早く定着させたいからなのか知りませんが、大阪入管は監理措置を申請した被収容者はどんどん許可して出所させています。なので、家族や親族、知り合いなどに「監理人」を引き受けてもらって監視措置を申請した人は、さほど収容が長くなるまえに、収容を解かれて外に出ていきます。

 いっぽうで、入管法改悪前から制度としてある「仮放免」については、例外的にしか認めないという方針を、入管は現在とっています。大阪入管でも、改悪法の施行後、仮放免申請はほぼほぼすべて不許可になっています。

 そういうわけで、「監理人」を引き受けてくれる人を見つけられない、たとえば空港で拘束されて収容された難民申請者は、収容を解かれて入管施設の外に出られる見込みがない、という状況に置かれてしまうわけです。

 従来であれば、そういう人たちについては、支援者や弁護士が身元保証人を引き受けて、「仮放免」という措置によって収容から解放されるということが多くありました。しかし、その仮放免は申請しても入管は許可しない。あたらしくできた監理措置のほうであれば、申請すれば入管が認める可能性は高いけれど、うえのリンク先の記事でも書いたとおり、制度の問題が大きすぎて、支援者や弁護士で「監理人」を引き受ける人はいない。

 私の面会している人のひとりも、まさにそういう状況にはまりこんでしまっています。自分の国での政治的な迫害から逃れてなんとか関西空港にたどりついたけれど、そこで拘束され収容されてしまった人です。私たち面会におとずれるボランティアの支援者のほかに、日本に知り合いなどひとりもいません。「監理人」の引き受け手などいるはずもない。

 家族などがいて監理人を引き受けてもらって監理措置を申請できた被収容者は、ひとり、またひとりと収容を解かれて去っていきますが、この人は外に出られる見込みもないまま、何か月も取り残されています。こうしていつ終わるとも知れない収容が続くこと自体が、大変なストレスでしょう。

 また、身体が拘束された状態では、自分が難民であることを裏づける証拠を集めることも不可能です。入管は収容によって難民申請者の立証作業を妨害しているのです。

 というわけで、入管による不当な収容に抗議の声をあげる必要性も、また収容された人にはげましの声を届ける必要性も、残念ながら減ってはいません。ぜひいっしょに声をあげてください。







*1:  2018年4月には茨城県牛久の入管センターで長期収容を苦にしてインド人被収容者が自殺しました。仮放免の不許可を知らされた翌日の自死でした。
 おなじ年の秋には、宗教的な迫害から逃れてきた中国人親子を福岡入管が拘束。入管は難民申請した親子の収容を継続し、執拗に帰国をせまり、持病のある父親を収容死させました。遺族が国に賠償を求めた裁判は、先日(12月12日)、請求棄却という(不当な)一審判決が大阪地裁で出たところです。しかし、亡くなった父親は、「不当な収容(監禁)によって難民申請者の立証作業を妨害し、保護を求めてやってきた難民を追い返そうとする」「ゆがんだ入管行政」の犠牲者と言うべきでしょう。
 2019年6月には、長崎県大村の入管センターで、3年半もの超長期収容に抗議してハンストしていたナイジェリア人被収容者を入管がほったらかして餓死させました
 そして、2021年3月。体調不良で食事をとれない状態が続き飢餓状態にあったウィシュマさんを名古屋入管が放置し、死に追いやった事件。


*2: このうち、2017年7月にトルコ国籍の被収容者が入管職員たちから暴行を受けた事件については、2020年9月29日に被害者と国のあいだで和解が成立しています。
 もう1つの、ペルー人被収容者が暴行を受けた事件の国賠訴訟は、現在も大阪地裁で係争中です。

2024年12月7日

バカバカしいほどの報道の仰々しさ

 

 ときどき、地方紙やテレビの地方局のウェブサイトに、入管法違反で外国人が摘発されたというニュースが掲載されているのを目にすることがある。警察発表をただたれ流したような内容のニュースだ。市民・住民の生活にとって、いちいち報道する意義があるとはまったく思えない。

 たとえば福島中央テレビのつぎのようなニュース。


福島市で自称台湾国籍の若い女を出入国管理及び難民認定法違反容疑で現行犯逮捕・福島(2024年12月5日掲載)|中テレNEWS NNN

福島市で自称台湾国籍の女が旅券不携帯の疑いで現行犯で逮捕されました。

出入国管理及び難民認定法違反の疑いで逮捕されたのは自称台湾国籍で住居不定、職業不詳の若い女です。

12月5日午後2時20分ごろ、一般の人からの通報を受け、現場に駆けつけた警察官がパスポートの提示を求めたところ、所持していないことが判明し、出入国管理及び難民認定法違反容疑で現行犯逮捕されました。

警察は女がなぜパスポートを持っていないのか調べています。


 たかがパスポートの不所持である。捜査の過程で在留期間切れ(オーバーステイ)などが明らかになるかもしれないし、あるいはそうではないかもしれない。たんにパスポートを持ち歩いていなかっただけかもしれない(たとえば買い物やパチンコに出かけるのに、わざわざパスポートなんか持ってでるかっつうの)。いずれにしろ、福島市の市民・住民の安全や福祉になんの関係もないニュースである。

 それにしても、このバカバカしいほどの仰々しさをみよ。「現場に駆けつけた警察官がパスポートの提示を求めたところ、所持していないことが判明し」とか、「警察は女がなぜパスポートを持っていないのか調べています」とか。くだらないことをくそまじめに書かないでくれ。あほらしい。

 まじめに書くべきことがあるとすれば、どうして警察官は「外国人」(にみえる)相手に対しては、旅券みせろと要求し、みせなかったら「旅券不携帯」だと言ってしょっぴくことが許されているのか、またそれは許されてよいことなのかとか、そういった問題についてではないの?

 こういうニュースが、だれにとって有益かといえば、警察や入管である。要約するならば、法に違反している(疑いのある)「外国人」がいて、それを警察官が逮捕したという報道である。実際のところは、オーバーステイになっている人を摘発したところで、市民・住民の安全や生活の向上に寄与することなど、あるはずもない。でも、上に引いたようなニュースは、「われわれ」(ってだれだ?)の安全をおびやかす「外国人」が地域におり、警察や入管がこれを取り締まることで「われわれ」の安全を守ってくれているかのような(誤った)イメージを視聴者や読者に植えつけようとする。

 ひとつひとつは短く、情報量も少ないニュースを、少しずつ継続的にあびることで、私たちは「外国人」を根拠もなく危険視する見方と、警察や入管といった国家機関が「われわれ」(ってだれだ?)にとって有益な働きをしているかのような幻想をなんとなく持たされていくのではないか。

 こんなふうにして、われわれは「外国人」を他者化した見方を強化していってしまうのだろうが、ここできちんと他者化すべきなのは、警察とか入管とかでしょう。


2024年11月26日

「不法入国」などと簡単に言うけれど……

  以下で引用する記事のケース、見出しになっているように、送還が家族をバラバラにしてしまうという点でもひどい話である。しかし、原告の人がフィリピンから日本に来た経緯を聞くと、ほとんど人身取引と言ってよいようなケースだよね。


在留特別許可を出すべきなのに退去強制処分を下したのは不当だとして、フィリピン国籍の60代男性が11月18日、国を相手取り、処分の取り消しや在留特別許可を出すよう求める訴訟を東京地裁に起こした。

原告代理人などによると、男性は1987年、20代のころに来日。エージェントに正規パスポートを預けていたが、脅かされて、別人名義のパスポートで入国したという。

その後、土木工事現場などで強制労働させられたが、1年ほどで逃げ出したという。友人宅で出会ったフィリピン人女性と2013年に同居して、間もなくして子どもが生まれた(現在は小学中学年)。

男性は2022年、市役所に相談のうえ東京入管に自首出頭して、家族3人の在留特別許可を求めたが、今年5月、妻子には在留特別許可が出たものの、自分だけ退去強制令書発付を受けていた……

「家族を引き裂かないで!」 フィリピン国籍の男性が在留特別許可を求めて国提訴 - 弁護士ドットコム(2024年11月18日 15時56分)】


 本人は正規のパスポートで日本に来るつもりだったが、ブローカーに強要されて別人名義のパスポートを使わざるをえなかったということのようだ。どうしてブローカーがこういうことをするのかと言えば、日本での雇用主がこの人を奴隷状態において働かせるためである。正規のパスポートを取り上げ、なおかつ違法なかたちで入国させることで、本人が逃げ出して警察などに駆け込むハードルを高くするわけだ。

 この人が渡日した1987年といえば、日本がバブル景気にわいていたころ。「労務倒産」とか「人手不足倒産」とか呼ばれる倒産が新聞などで報じられていた時代である。中小零細の工場が、仕事はあっても従業員を確保できずに倒産してしまうのである。このような時代にあって、日本人労働者が敬遠した「3K」(キツイ、キタナイ、キケン)と呼ばれた職場の人手不足をおぎなったのが、フィリピンやイラン、バングラデシュ、パキスタンなどから来た労働者だった。

 私自身、その当時(80年代後半から90年代にかけて)に渡日した人たちから、上の記事のフィリピンのかたのように、ブローカーから別人名義のパスポートを手渡されたという話をいくつか聞いたことがある。国外から労働者を呼び込むさいに、「不法入国」させて従属させようという手法は、おそらく横行していたのだろう。フィリピンなど送り出し国側のブローカー、日本側の雇い主となる企業、それにヤクザなどがそれぞれ役割を分担して、外国人労働者を呼び込み、弱い立場に置いてその労働力を安く買いたたいて利益をえてきたのである。

 このような人身取引まがいの行為に直接に手をそめた者は、もちろん一部の人間ではある。けれども、こうして違法なかたちで呼び込まれた労働者によって、日本の社会が総体として支えられてきたのだということも無視してはならないと思う。

 違法状態に置かれた労働者に依存してきたということでいえば、上でみてきたこととはべつに、オーバーステイの外国人労働者の存在を日本政府があきらかに黙認してきたということも、重要である。バブル期から2000年ごろまで、警察は、在留期間が切れた状態で町工場などで働き地域社会で暮らしている人たちを積極的に取り締まろうとしていなかった。当時非正規滞在状態だった人たちの経験談として、職務質問などでオーバーステイになっていることが発覚したけれど、警察官はそんなことをぜんぜん気にとめもしないようだったという話を私もいくつも聞いたことがある。日本政府が非正規滞在外国人の存在を容認しないという姿勢を明確に示すのは、2003年12月に「犯罪対策閣僚会議」が翌年からの「不法滞在者半減5か年計画」を打ち出して以降のことである。

 こうしたことを考えると、「不法入国」にしろ、「不法残留」にしろ、たんに個人の違反としてとらえるだけでいいのだろうか、ということは考えてしまう。この人たちは「不法」な状態にあったゆえに弱い立場でその労働力を安く買いたたかれたのであり、直接の雇用主だけにとどまらず、日本の社会は総体としてそこから利益をえてきたのである。問われるべきなのは、日本の国や社会のありかたなのではないのか。


2024年11月20日

「重病者にしか仮放免は適用しない」ハンストを助長する入管庁方針

 

 大阪入管でわたしが面会しているかたのひとりが、11月17日の朝からハンストをおこなっています。収容期間が長くなっていることから、これに抗議してのハンストです。

 そういうわけで、今日、いそいで申入書をつくって、支援者3名の連名で大阪入管に抗議の申し入れをしてきました。

 6月10日に昨年成立した改悪入管法が施行され、監理措置という制度が創設されました。これにともなう入管庁の新しい仮放免についての運用方針が、収容されている人のハンストを助長していると言うべき状況があります。

 こんなことやってると、いずれまた入管収容施設での死亡者が出かねないと危惧されます。ところが、新たな入管法の施行から5か月ほどしかたってないこともあり、問題の深刻さがまだぜんぜん知られていないだろうと思います。

 この深刻さを少しでも周知したいということで、申入書を公開します(ハンストをしている人の名前を「A氏」と匿名にしています)。



申 入 書

2024年11月20日

大阪出入国在留管理局 局長 殿

(申し入れ者3名の名前――省略)


 貴局に収容されているA氏から私たちのもとに、11月17日の朝からハンガーストライキをしているむね連絡がありました。私たちは、A氏がハンストをおこなうことによって自身の健康を害することを強く懸念しております。

 A氏と継続的に面会し、話を聞いてきた私たちからすれば、仮放免についての入管庁の運用方針が、A氏をハンストせざるをえない状況に追い込んでいるものと理解するよりほかありません。したがって、以下に述べるように、運用方針をあらため、早期に仮放免を適用することでA氏を収容から解放するよう申し入れます。



 6月10日より改定入管法が施行され、監理措置制度が創設されました。これにともない、入管庁は仮放免についても従来とは異なる運用方針をとっています。

 10月9日に、WITH(西日本入管センターを考える会)など6団体で貴職に申入れたとおり、監理措置制度は、被監理者の人権をいちじるしく侵害すると同時に、この人権侵害を民間人である監理人に強要する制度です。このため、従来、仮放免の身元保証人を引き受けてきた支援者や弁護士の多くは、新しい制度である監理措置の監理人を引き受けることはできないと考えています。

 このような状況において、A氏は弁護士が身元保証人を引き受けて仮放免を申請しています。

 しかし、改定入管法施行後、「仮放免を許可するに当たっては、被収容者の収容を解除するための原則的な手段が監理措置であることを前提としてもなお、監理措置によることなく収容を一時的に解除することが相当と認められる程度の健康上、人道上その他これに準ずる理由が求められる」(入管庁審第1077号「仮放免運用方針の一部改正について(通達)」)という運用方針をとっております。このようにきわめて限定的な場合にのみ仮放免を許可するという現行の方針のもとでは、A氏は収容を解かれる見込みを持てないまま、収容が長期化していくことになります。事実、A氏の収容期間は6か月ほどに及んでいます。この収容期間は、法施行日前に仮放免申請した、あるいは法施行日以後に監理措置を申請した、貴局の他の被収容者たちと比較して、異例の長さと言えるものですが、こうして収容が長期化するなか、しかも収容から解放されるめどが本人にとってまったくもてないのです。

 また、A氏は貴局の職員から「改定法のもとでは、重病など例外的な場合でなければ仮放免は適用されない」という趣旨の説明を受けたそうです。

 監理措置と仮放免についてのこうした制度運用のもとでは、A氏のような状況にある被収容者にとって、「自身の健康状態がいちじるしく悪化することでもないかぎり、収容から解放されることはないだろう」と考えるのは必然です。いわば、入管がその制度運用によって、被収容者にハンストなど自身の健康を害する行為をうながしているようなものです。

 このような制度運用を続ければ、2019年6月に大村入管センターに収容されていたナイジェリア人男性が拒食のすえに餓死したのと同様の事件をまたくり返すことになるのではないかと、私たちは強く危惧します。



 A氏は難民申請者であり、難民該当性を自身で立証しなければなりませんが、貴局が収容を継続しているため、その立証作業がさまたげられています。

 また、頚椎症の治療・療養を必要としていますが、収容下にあって、投薬によって痛みを緩和する治療を受けているのみです。診察する医師からA氏は、「薬とリハビリによって治療するのが一般的だが、ここではリハビリができないので投薬のみの治療になる」と説明されています。

 10月9日の申入れに対して11月14日にいただいた貴局からの回答では、被収容者に対し「社会一般の水準に応じて適切な医療を提供している」とのことでした。しかし、上記の医師の評価からすれば、A氏の収容を今後も継続しながら、社会一般の水準に応じた医療を提供するのは不可能でしょう。

 このように、収容によってA氏は権利を侵害されています。A氏が難民該当性の立証作業と治療・療養ができるように、仮放免によって収容から解放するよう申し入れます。


以 上




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支援者を人権侵害の共犯者にする 監理措置制度のやばさ(2024年11月10日)


2024年11月16日

批判する相手の思考をなぞることのこわさ、みたいな話


 こわい話をひとつ。

 入管問題についての原稿を書きまして、いまそのゲラ・チェックをしていたのですが、自分がひどいこと書いたのに気づきました。なんと、「退去強制すべき違反」などという語句があったのです。引用ではなく、自分の書いた地の文のなかに。

 おどろいた! 私はなにを書いているのか! 完全に入管の立場によった言葉を発してしまっているではないか。

 私が「退去強制すべき違反」という言葉を不用意に書きつけてしまったのは、入管の収容に関する制度を説明する文脈においてでした。だから、入管法・入管制度が根ざしているような言葉づかいや考え方がそこに入り込んでしまうことは、当然といえば当然です。

 しかし、それにしても「退去強制すべき違反」はない。「退去強制の対象となる違反」とかならまだしも。自分の発する言葉が、批判すべき対象とのあいだの距離を完全にうしない、癒着してしまっている。

 なにかを批判しようとするとき、相手の言葉や思考をなぞってみるということをするわけですけれど、そうすることでそれを自分のものとして取り込んでしまうということに、やはり自覚的になって注意したほうがよいんだろうなと思います。

 まず、批判する相手の言葉や思考をなぞって書くときに、そこに距離というかすき間をあけた書き方をするということが、ひとつには大事なのではないか。「退去強制すべき違反」と書くのと、「退去強制の対象となる違反」と書くのでは、そのちがいは小さいようで意外と大きい。後者の表現には、対象とのあいだにちょっとしたすき間ができます。

 それと、相手の言葉・思考をなぞったあとは、そこからもどってくる儀式みたいなのが必要なのかなと思います。「入管解体!」とくり返しとなえるとか……。整理体操みたいなの。なんかいいやり方を考えたいです。


2024年11月10日

支援者を人権侵害の共犯者にする 監理措置制度のやばさ

 

 昨年(2023年)に成立した改悪入管法が6月から施行されています。これにともない、「監理措置」という新たな制度の運用が始まっています。

 しだいに見えてきたのは、この監理措置が、監理措置を適用される外国人(「被監理者」と呼ばれます)を支援する人を、入管の人権侵害の共犯者として取り込もうとする制度であるという点です。そのことは法律の条文を読んであきらかだったのですけれど*1、実際の運用がはじまって、それをますます確信しているところです。



新制度のねらいは送還強化

 この新しい制度が創設されたことで、収容を解除するための2つの制度が併存することになりました。従来からある仮放免制度と、新しくできた監理措置制度です。

 なぜ、すでに仮放免という制度があったのに、わざわざ新たな制度を作ったのか? その経緯をざっとふりかえっておきます。

 2016年ごろから、入管施設における収容の長期化が顕著になり、報道などを通して収容下での人権侵害の深刻化が広く知られ、問題にされるようになりました。入管行政や難民受け入れのあり方に対する世論の批判が高まるなかで、2019年の秋ごろから浮上してきたのが、監理措置制度の創設や難民申請者の強制送還を可能にする入管法改悪の動きでした。

 政府は入管法を変える名目として、収容の長期化を解消するためだということを言っていました。しかし、実際のねらいは、強制送還をもっと強力に進められるように入管の権限を強化することであったのは、改悪の内容(3回目以降の難民申請者の送還を可能にする、など)をみればあきらかでした。

 監理措置についても、おなじです。収容を解く措置としては、すでに仮放免という制度があったのであって、これを使って収容の長期化をふせぐことは十分に可能だし、じっさい入管は2010年代前半までは、仮放免を弾力的に活用することで収容長期化の回避に取り組んでいるのだと、国連の拷問禁止委員会などに対して述べていました*2。したがって、収容長期化を解消するために監理措置の創設が必要だ(った)という政府の説明はウソであって、むしろ「送還忌避者」を厳しく監視・管理し、確実に送還を実施するために新しい制度を作ったのだとみるべきです。

 この点は、法改悪の経緯とともに、監理措置が従来からある仮放免とどう違うのかという内容の面からもあきらかです。監理措置は、入管(主任審査官)が選任する「監理人」に、「被監理者」(監理措置を適用されて収容を解除される外国人)の生活状況等を監視・把握させ、入管への報告義務を課す(違反すれば、10万円以下の過料が科される)というものだからです*3。仮放免の身元保証人にはこうした責務は課されません。長期収容の解消のためではなく、収容を解除してもなお強力な監視・管理を可能にするために創設されたのが監理措置です。それは、以下の監理措置に反対する「呼びかけ文」でも明確に指摘されているとおりです。


 そもそもなぜ入管は監理措置制度を新設したのでしょうか?この制度は、入管が「送還忌避者」と呼ぶ帰国できない事情のある非正規滞在者たちを徹底的に管理することを目的としたものです。監理措置制度は、いわゆる「送還忌避者」を徹底して管理したうえで、無理やりに強制送還するための制度です。入管権力の下で民間人をその手先として報告義務を負わせ、確実に監視・監理し、併せて送還計画を立て、確実に送還を執行するための、入管の方針に組み込まれた制度であるということを私たちは認識しておかなければなりません。

人間破壊の「監理措置制度」反対!呼びかけ文 | 入管闘争市民連合



仮放免は重病人にのみ適用

 さて、前振りが長くなりましたが、問題は、6月の法施行以降この監理措置がどのように運用されているか、です。法改悪後も、仮放免も(若干の変更はありつつも)制度として維持されているので、収容解除のための2つの制度が併設されている、ということになります。

 仮放免・監理措置の2制度の関係について、大阪入管の審判部門に問い合わせてみたところ、つぎのような説明がありました。「今後は収容を解く場合は、基本的に監理措置のほうを使うことになる」「仮放免は例外的にしか認めないことになる」と。

 収容されている人たちも、職員から「仮放免は重病の人だけ」と言われ、収容を解かれたければ監理措置のほうを申請するよう、うながされているようです。

 ちなみに大阪入管では、監理措置の運用がスタートして、7月から10月までの4か月ぐらいで、少なくとも被収容者10人超が監理措置決定により出所しています。10人超というのは、収容されている人との面会活動で私が把握している数字(伝聞ふくめ)なので、実際はもう少し多いかもしれません。いっぽう、大阪入管の被収容者でこの間、監理措置を申請したけれど、「不決定」、つまり監理措置が認められなかった人は、私の知る限り1人だけ(この人は2回申請していずれも「不決定」)です。

 仮放免はどうかといえば、大阪の場合、職員が被収容者に監理措置のほうを申請するよう誘導していることもあり、申請自体が非常に少ないようですが、6月10日の法施行以後の申請で許可された例は、私の知るかぎりありません。

 関東の支援者に聞くと、東京では健康上の理由で仮放免が許可されている例はいくらかあるようです。しかし、いずれも仮放免後2週間といった短期間のうちに監理措置を申請するすることが許可の条件として付けられているとのことです。つまり、指定された短い期間に監理人を引き受けてくれる人を見つけ出し、監理措置を申請しないかぎり、仮放免を取り消して収容するぞと、いわば、おどしているわけです。

 改悪入管法が施行されて5か月ほどになりますが、仮放免は重病などごくごく例外的な場面でのみ、しかも期間を短く区切ってしか適用しない、という運用になっていることがわかります。



監理措置を申請できない人は収容が長期化する

 このような制度運用のもとでは、帰国できない被収容者が収容から解放される手段は、監理措置を申請する以外に事実上ない、ということになります。

 ところが、仮放免とくらべて監理措置は、申請のハードルが格段に高い。というか、監理人の負担は、仮放免の保証人のそれより格段に大きいため、被収容者が監理人の引き受け手をみつけることはむずかしいのです。

 その「監理人の負担」とは、被監理者を監視し、入管に対して罰則付きの届出・報告義務を負うということですから、たんに労力が大きいということではありません。監理人を引き受けると、入管の手先となって他人の生活状況や行動をスパイするという、良心的な人間であれば道徳的あるいは倫理的な葛藤を深くかかえこまざるをえないような行為をしいられるのです。

 仮放免の身元保証人であれば、家族親族や友人のほか、これまで支援者や弁護士がこれを引き受けることがめずらしくありませんでした。しかし、多くの支援者は、監理措置の監理人を引き受けることに躊躇(ちゅうちょ)しないわけにはいきません。さらに弁護士の場合、監理人を引き受ければ守秘義務違反に問われかねません。そもそも、国家権力である入管の手先として監視と密告をおこなう監理人の任務と、相互の信頼関係なくして成立しない支援とは、あいいれるものでありません。

 こうして、家族などが監理人を引き受けて監理措置申請をした被収容者はさほど長期になる前に収容を解かれることがあるいっぽうで、仮放免のほうを申請した被収容者は重病で収容にたえられないとみなされないかぎりこれを許可されず収容が長期化しつつあるというのが現況です。



支援者を人権侵害に加担させる仕組み

 この状況は、とくに入国しようとして空港で拘束された難民申請者などにとって、不条理きわまりないものです。保護を求めて来たのに監禁され、「解放されたければ、あなたを監視する役目の人間を探してきなさい」と要求されるのです。日本に来たばかりの人に、監理人を引き受けてくれるような人が日本にいるということは当然ながら非常にまれです。ところが、これを見つけなければ、いつか重病になって施設から放り出されるまで収容が続く、ということになるわけです。

 当人の苦悩は切実きわまりないものです。とれる手続きもないまま、なすすべもなく収容が長期化していく。長期化どころか、いつ出られるかわからない。収容が解かれることは、重病になるか死体になるか以外に見込めない。絶望的としか言いようのない状況です。

 こうした被収容者の苦悩をまえにして、私たちはどうしたらよいのでしょう?

 まず基本的な前提として、つぎの事実はふまえておく必要があると思います。すなわち、この状況をつくっているのは入管にほかならない、ということです。収容が長期化するのは、入管がそのような制度運用を選択している結果であって、これがもたらす人権侵害の責任は入管にあるということです。したがって、私たちがすべきこととしては、まずなにより、こうした制度運用を変えさせるよう入管に働きかけることが必須だと思います。重病になるまえに仮放免制度を活用して収容長期化を回避せよ、と。

 ただ、そうしているうちに、収容はつづき、収容されている当人の苦悩はますます深くなっていきます。そこでこう考える支援者が出てくるのは、当然と言えば当然かもしれません。「自分が監理人を引き受けて、この人が監理措置申請するのをお手伝いすれば、それが認められてこの人は収容の絶望からはとりあえず解放されるかもしれない」と。

 しかし、こうして支援者が監理人を引き受けてしまうのは、入管が進めようとしている監理措置の定着に手を貸すということであり、ひいては結果的に当事者の首をしめることになる行為であるということも確かです。

 ここに、監理措置という制度のおそろしさがあると思います。目の前で苦難にある人に対して、その苦難から逃れられるように自分の力を使って手助けしてあげようという行為が、外国人管理の制度に組み込まれ、結果的に外国人を抑圧・管理・追放する政策に加担させられることになるのです。



仮放免者への影響

 とりわけ危惧されるのは、監理措置が制度として定着していったときに、旧入管法のもとで退令仮放免されている3000人以上の人がどうなるのか、ということです。

 現在のところ、新入管法施行日の6月10日より前から仮放免されている人について、旧法のもとでの仮放免の効力が存続するというあつかいになっています。しかし、これはあくまでも「経過措置」としてのあつかいであって、この仮放免の効力がいつまで存続するかは、入管しだいです*4

 入管はいずれ旧法のもとでの仮放免者を監理措置に切り替えようとしてくるでしょう。原則として収容解除は監理措置でおこない、仮放免はあくまでも重病者に対する例外的な措置であるという位置づけで入管が制度を運用する以上、当然の話です。

 そもそも、「送還忌避者」と入管が呼ぶところの退令仮放免者らを送還強化によって減らすことが、昨年の入管法改悪の最大の目的であるわけです。入管は、仮放免者に対して、「次回は仮放免期間の更新を認めない」「監理人をみつけて、監理措置を申請してください」と通告し、次の出頭日までに監理措置を申請しない(できない)仮放免者を再収容していく、ということができるし、いずれやってくるでしょう。

 いまそれを入管がやっていないのは、たんにその準備がまだできていないと判断しているからにすぎません。そこにはさまざまな要素があるでしょうが、2021年の入管法改悪が市民の反対運動に直面して廃案に追い込まれたこと、23年にはこれとほぼ同じ内容の法案が強行採決により成立したものの広範で強力な反対運動があったことの影響は、けっして小さくないでしょう。入管の視点からすれば、仮放免者をつぎつぎと再収容して帰国に追い込んでいくということに着手すれば、入管法改悪のときのような反対運動を覚悟しなけばならない。そのことが、仮放免者の監理措置への切り替え・再収容に入管がふみきろうとするさいの抑止力になっているのは、まちがいありません。

 しかし、市民の強い抵抗を覚悟しなくてすむだろうと入管が判断すれば、旧法での仮放免者を一掃しようとしてくるでしょう。そのさいに、監理措置制度が支援者や市民からの理解をえられたとみなせるような状況になっていれば、入管は容易に仮放免者に監理措置への切り替えを要求できるはずです。入管庁は、あまり良心やプライドのないタイプの記者を使って『読売新聞』や『産経新聞』につぎのような論調の記事を書かせることでしょう。


「2023年の入管法改正で、長期収容問題を解消する目的で監理措置制度が創設された」

「ところが、不法滞在者を支援する一部の支援団体や弁護士がこれに反対している」

「改正法の施行日前から仮放免されていた者について、入管庁は法改正にともなう経過措置として従来どおりにあつかってきたが、改正法施行から●年経過した今、監理措置を申請してこれに切り替えるように求めている」

「監理人を引き受けて被監理者の住居や生活の支援をおこなう(立派な)支援者がいる一方で、この新しい制度に反対する一部の支援者や弁護士が、仮放免者の監理措置への切り替えに反対している」

「このため、監理人の引き受けてを見つけられず、監理措置申請をしない仮放免者が入管施設に収容される事態となっている」


 で、入管や難民、移民に関するヤフーニュースの記事のコメント欄には、こうした論調をコピーしたようなコメントが、あなたたち元記事ぜったい読んでないでしょと言いたくなるような文脈無視っぷりで大量につく、というところまで目にうかびます。

 支援者らへのバッシングはまあどうでもよいことですが、入管が監理措置制度をテコにして仮放免者に対して強制送還に向けた再収容に着手してくるということは想定しなければなりません。支援者が、監理措置制度を批判せず、これに承認をあたえてしまうのは、近い将来に予想されるそうした入管の動きに対し、道を開けて「どうぞどうぞ、ここを通ってください」と加担することにならないでしょうか。



「支援」だけでは足りない

 支援者が監理人を引き受けるのはいかなる場合でもダメなのかといえば、そこは一概に言えないかもしれません。しかし、これを引き受けることの是非とはべつに、監理措置制度に支援者が無批判であってよいのか、という問題はあると思います。

 まあ、監理人を引き受けるという選択をする支援者でも、この制度を手放しで肯定できるという人は、(たぶん)いないでしょう。問題の大きな制度だと認識しつつ、目の前の被収容者を救うためには、現実的にこの制度を使うしかないというジレンマを感じつつ、監理人を引き受けるのかもしれません。

 現在の入管の制度運用においては、仮放免を申請しても重病でなければ許可が出ません。目の前で苦しんでいる被収容者がいれば、この人が収容から解放されるには、監理措置を申請するしかないのだから、支援者としてはそのお手伝いをするしかないではないか。そう考えるのは、たしかに理解できます。

 しかし、こういう入管が現にとっている制度運用を前提にして、そのわくのなかでできる最善の選択はなにか、というふうに考えてしまうと、結局のところ入管の人権侵害をアシストする解答しか出てきようがありません。だって、監理措置なんて、徹頭徹尾、人権侵害の制度でしかないのだから。それを許容するのか、しないのか、というところは、結局のところ問われてくるのだろうと思います。

 入管の制度運用を変えさせることがやはり不可欠なのであって、監理措置にちゃんと反対しましょう、ということがこの長い文章の結論になります。「支援」だけでは足りなく、社会運動がなければならないということです。入管は長期収容するな、仮放免制度を使え。



注 

*1: 監理措置については、以下の過去記事で、新しい入管法の条文に言及しつつ、考察しています。

【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈1〉(2023年12月2日) 

【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈2〉(2023年12月6日) 

【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈3〉(2023年12月14日) 


*2: 以下の記事を参照。 

【改悪入管法案】「監理措置」は収容施設外での生活を可能にする制度ではない(2021年2月19日) 


*3: 監理措置制度において、監理人に課される「責務」の内容については、【改悪入管法を読む】監理措置とはなにか?〈3〉にまとめてあります。そのうえでこの監理措置を創設した入管のねらいを分析した部分を、同記事から引用しておきます。 

 従来の仮放免制度においても、入管は「動静監視」と称して、仮放免者の生活・行動を調査し把握しようとしてきました。この「動静監視」を民間人である監理人にも一部アウトソース(外部委託)しようというのが、監理措置制度であると言えるでしょう。監理人は被監理者をスパイする役割を負わされることになります。 

 被監理者にとってみれば、家族や友人、あるいは支援者や弁護士など、自分を支援する立場の人間をつうじて、自身の行動を監視・監督されるということです。自分にとって身近な存在、しかも自分に必要な生活上の資源や情報を提供してくれる者から見張られるとなれば、ある面では入国警備官に監視される以上にその監視の強度は高くなるでしょう。

  入管の視点からいえば、被監理者に対する支援者らの親密さや信頼関係を資源として利用することで、より強度の高い監視・管理をおこなおうというのが、監理措置制度を創設した意図としてあるでしょう。 ……


*4: 旧法のもとでの仮放免者に対するこうしたあつかいが、あくまでも「経過措置」であること、その経過措置による仮放免は「終了」することがあること、それが「終了」すれば各種申請については新法が適用されることが、出入国管理庁のサイトで述べられています。 

仮放免に関する各種申請 | 出入国在留管理庁