おととい投開票がおこなわれた衆院選で国民民主党が躍進したようだ。
党の代表の玉木雄一郎氏は、選挙の公示直前に「社会保障の保険料を下げるために」「尊厳死の法制化も含めて」「終末期医療の見直し」が必要だという趣旨の発言をおこなっている。前後の文脈からもあきらかなように*1、高齢者をスケープゴートにして若い世代からの支持をとりつけようという、さもしい発言である。
玉木は、3年ほどまえには、外国籍住民を敵視する右翼に迎合するような発言をしており、このブログでも問題にした。
議論があることはかならずしもよいことではない――玉木雄一郎氏の人権否定発言について(2021年12月22日)
今回の選挙で党の勢力が拡大してその影響力はますます軽視できなくなっているわけでもあるので、あらためて当時の玉木代表の発言をむしかえしておきたい。
2021年12月21日、武蔵野市議会で住民投票条例案が否決された。外国人住民にも投票権を認めた条例案が成立しなかったことについて、玉木は「安心した」として、次のような発言をしたという(太字強調は引用者)。
玉木氏は今回の住民投票条例案に関し「外国人の権利の保護を否定するものではないが、極めて慎重な議論が必要だ」と指摘。その上で「憲法に外国人の権利をどうするのかという基本原則が定められておらず、ここが一番の問題」との認識を示した。
さらに、「まずは外国人の人権について憲法上どうするのか議論すべきで、そういう議論がなく拙速に外国人にさまざまな権利を認めるのは、極めて慎重であるべきだ」と強調した。
【国民民主・玉木氏「否決され安心」 武蔵野条例案 - 産経ニュース(2021/12/21 17:40)】
玉木はここで、論じるまでもなく自明なことについて、あたかも議論の余地がある「問題」であるかのように語ることで、その自明性を留保しようとしている。しかし、こんなことは議論の余地なく自明なのであって、論じるまでもない。「外国人の人権について憲法上どうするのか」などという問題にならないことをことさら問題にしようとすることこそが、問題である。
「極めて慎重な議論が必要だ」? たとえば、女性の人権について、障害者の人権について、また外国人の人権について、どんな議論の余地があるというのか? それが議論の余地のある「問題」であるかのように語ること自体が、女性の、障害者の、外国人の権利を否定することにほかならない。
上の産経の報道を受けて、玉木氏は自身のツイッターにつぎのように投稿している。
外国人の人権享有主体性については様々な意見があります。100%これが正しい、これが間違っているというものではありません。我が党としては、憲法上の位置付けをどうするかも要検討としています。だだ今回は民主的手続きを経て否決された以上、慎重に対応すべきでしょう。
ここでも玉木氏は、「様々な意見があります」と言って、外国人が人権を享有する主体であるという自明に当然のことについて、留保しようとしている。
こうした語り方は、卑怯でもある。玉木氏は、外国人が人権を享有する主体「ではない」とはみずから明言はしない。「外国人の権利の保護を否定するものではないが」などとも言ってみせる。
でも、このお調子者は、排外主義的な世論にむけて、自分は外国人の権利について留保なく認めるべきだと考えるような人間ではないのだと、アピールしているのである。自分自身は差別主義者とのレッテルを貼られないように注意しながら。セコイよね。
しかし、「同性愛者の人権享有主体性については様々な意見があります」などと語る人間を差別主義者と呼ぶのがなんらまちがいではないように、「外国人の人権享有主体性については様々な意見があります」と語る人間が差別主義者でないわけがなかろう。
今回の選挙で、玉木と国民民主党は、「終末期医療」の過剰、あるいは「尊厳死」の不足が、若い世代を圧迫しているのだと考えるような人間たちの支持をとりつけ、自分たちの政治的な資源にしようとした。玉木はまた、外国人の人権など認めるべきでないと考えるような者たちに迎合し、これを自身の政治的な資源として取り込もうともしている。こういう政党が今回の選挙で躍進し、大きな影響力をもちつつあるという状況が、おそろしいです。
注
*1: 玉木の発言は、10月12日の日本記者クラブ主催の党首討論会でのもの。玉木は自身の発言が多くの批判を受けると、「日本記者クラブで、尊厳死の法制化を含めた終末期医療の見直しについて言及したところ、医療費削減のために高齢者の治療を放棄するのかなどのご指摘・ご批判をいただきましたが、尊厳死の法制化は医療費削減のためにやるものではありません」などと同日中に釈明した。しかし、以下のように玉木は明確に「社会保障の保険料を下げる」「医療給付を抑え、若い人の社会保険料給付(ママ)を抑える」という文脈のなかで「終末期医療の見直し」「尊厳死の法制化」に言及しており、釈明で言っていることは自身の元の発言とまったく整合しない。
「社会保障の保険料を下げるためには、われわれは高齢者医療、とくに終末期医療の見直しにも踏み込みました。尊厳死の法制化も含めて。こういったことも含め医療給付を抑え、若い人の社会保険料給付を抑えることが、消費を活性化して、つぎの好循環と賃金上昇を生み出すと思っています」
この玉木発言については、医師の木村知氏による以下の批判を参照してほしい。
玉木雄一郎代表の「尊厳死の法制化」発言に恐怖で震えた…現場医師が訴える「終末期の患者は管だらけ」の大誤解 「死なせてほしい」という意思はきっかけ一つで変わる | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)(2024/10/22 7:00)
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