6月24日に「これからの闘いに向けた全国集会」(主催:入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合)というのに参加してきました。改悪入管法が6月9日に可決・成立してしまったことを受け、これからの闘いをどう構想していくのか、というテーマの集会です。
ここで「大村入管死亡事件について」と題して、すこし話をさせてもらいました。大村入管がナイジェリア人男性を餓死するにいたるまで放置した(見殺しにした)背景には、入管庁の収容や送還をめぐるどのような方針・指示があったのか。また、その方針・指示はこの見殺し事件のあと、かわったのか、かわらなかったのか。そういったことをお話ししました。
そうして話した内容は、記録としてのちに参照できるようにしておく意義もあるのではないかと思い、このブログにのっけておきます。ただ、当日は途中までしか原稿を作っていかなかったので、冒頭の3分の1ぐらいをのぞいて、記憶で再現しています。実際にしゃべった内容とは、すこしずれていると思います。
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「死亡事件」ではなく「殺人事件」
今日は6月の24日ですが、4年前、2019年の6月24日に、長崎の大村入管センターで、Aさんというナイジェリア人男性が亡くなりました。この4年前の今日起こった事件を忘れてはならない、心に刻まなければならないと思い、今日はその話をさせていただきます。
「死亡事件」とよく言われるんですけど、Aさんの事件にしろ、ウィシュマさんの事件にしろ、「見殺し事件」と呼ぶべきじゃないかと思います。どちらも、死亡しつつある人を「助けられなかった」という事件ではないんです。だって、助けようとしなかったんだから。助けられる手段はあって、それはぜんぜん難しいことじゃなかった。でも、その助ける手段をとらずに見殺しにした。それは「死亡事件」というより、「見殺し事件」とか「殺人事件」と呼ぶのにふさわしいんじゃないでしょうか。
具体的に話します。Aさんは、大阪入管と大村入管センターとあわせて、通算3年半ものあいだ入管施設に収容されていました。で、ここから出してほしいとハンガーストライキ、それも水すら飲まない絶食をおこなって、亡くなってしまったわけです。
入管庁は、その年の10月に調査報告書(「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」)を出しています。これは入管の対応に問題はなかったというようなことを言っている報告書なのですが、Aさんが長期間拘束されて自由がないということを言って、「仮放免でも強制送還でもいいので、ここから出してください」と、そう訴えてハンストをしていたことが記録されているんです。なぜAさんが水すら飲まず完全絶食をしていたのか、大村入管は把握していた、ということです。ということは、入管は、仮放免の許可を検討するからハンストを中止して、医者の診察もうけてくださいと説得することができたし、そう説得すればAさんがハンストを中止する可能性は高かったはずです。
実際、ハンストなどで危険な状態にある被収容者に対して、入管が仮放免許可をするからと言って食事をとるように説得するという例はぜんぜんめずらしくはないです。入管が収容して自由を制限している人の命を最優先するなら、そうするしかないわけです。ところが、大村のセンターは、そうしなかったんです。水も飲んでないわけだからそのまま放置してたら1週間か10日で死ぬことは分かりきったことなのに、ほったらかしにした。これは見殺しです。入管は「死亡事案」と呼んでいるのですが、「見殺し事件」「殺人事件」と呼ぶべきだと思います。
見殺し事件後も方針をかえなかった入管庁
ウィシュマさんが見殺しにされた事件と同じですよね。ウィシュマさんはハンストではなく、食べたくても食べられない状態になっていたということでAさんとは違うのですけど、さきほどSTARTの支援者のお話にもあったように、命を救う方法がはっきりしていた、それもぜんぜん難しいことではなかった、でも入管はその方法をとらなかった、それで見殺しにしたということです。入管はAさんやウィシュマさんの命を軽くあつかいました。ではなにを入管が重視したのかといえば、収容を継続するということだったわけです。
この、収容の継続を重視して、命を軽くあつかうという入管の姿勢は、Aさん事件のあとの入管の対応にはっきりとあらわれています。Aさんが6月24日に亡くなり、その3週間後の7月17日に、入管庁の長官の佐々木聖子さんという人が日本記者クラブで記者会見をしました*1。佐々木長官はここで「長期収容というのが非常に問題だという認識は非常に強く持って」いるとしつつも、「なんとしても送還を迅速におこなうことで長期収容を解消したいというのが入管の基本的な考え」であると述べました。迅速な送還によって、長期収容を解消しようというのが入管の考えだと言ったわけです。
これは、ちょっとややこしい説明がいるんですけど、Aさんの事件のあとも、入管はこれまでの方針を維持しますよという宣言です。入管は、2010年から15年までのあいだは、長期収容と仮放免について、いまと少し違う方針をとっていました。それはどういうことかというと、「長期収容は問題だ」ということがまずあって、その長期収容を回避するために仮放免の制度を柔軟に活用しますと。そういう通達を入管内部で出し*2、プレスリリースも出し*3、国会答弁や国連なんかにもそう言っていたんです。仮放免を柔軟に活用して長期収容を回避するんだと。それが入管の公式の立場でした。
ところが、2015年9月にその通達は廃止されました*4。仮放免制度を活用して長期収容を回避するという通達が廃止され、それで、あくまでも送還によって長期収容を解消するんだという方針になったわけです。結局それはムチャな話で、この方針によって2015年以降、全国の入管施設でどんどん収容が長期化していったということは、みなさんご存じのとおりですよね。この方針にのっとって、大村入管は瀕死のAさんに仮放免許可の打診をしなかった、そして見殺しにしたのです。
ところが、入管庁の長官は、こういう痛ましい事件があってもなお、これまでの方針を変えません、維持しますと宣言した。反省しなかった。見直さなかった。そうして、ウィシュマさんの事件があったということです。Aさんを見殺しにした事件の再発防止に失敗したのです。
本庁指示にもとづく現場での蛮行
収容が長期になっても仮放免はしないんだと、あくまでも送還が第一であってそのために収容を継続するんだと、そうした方針のもとで、Aさんが見殺しにされました。で、Aさんの死があっても、入管庁の長官はこの方針を改めない、維持すると記者会見の場で宣言しました。
では、佐々木長官のこの宣言を受けて、入管センターなどの現場はどう対応したのか、ということをお話します。
このときに入管がおこなった行為は、日本政府による蛮行・残虐行為として歴史に残り、何百年も語り継がれると思います。
2019年の5月、6月ごろ――Aさんが大村でハンストをおこなったのと同時期ですが――牛久(東日本入管センター)でも、死ぬのを覚悟しての命がけのハンストをやる人が複数出てきていました*5。2015年ぐらいから始まる収容の長期化が、このころには被収容者たちにとって心身の限界にきていたということです。そして、Aさんの死後も、仮放免しないなら死ぬまで続けるという覚悟でのハンストをする人は、牛久でも大村でもつぎつぎに出てきて、やみませんでした。
これに対し、入管は「仮放免します」と言ってハンストを中止するよう説得し、ハンスト者がハンストをやめると、自力でなんとか歩行できるぐらいまで体力が回復するのを待って仮放免するという対応をとりました。
ところが、仮放免で収容を解くのはたったの2週間だけ。2週間後にふたたび収容するという措置を入管はとりました。こうしてまた収容された人がふたたび、あるいはみたびハンストすると、入管は2週間だけ仮放免してまた収容するということを、くり返したのです*6。
一度収容を解いて希望をもたせ、それをたたきつぶすということを、入管はくり返しやったわけです。収容が長期化しても仮放免はしない、あくまでも収容を継続し、送還・帰国に追い込むんだという2015年以来の方針は、2019年にAさんの事件があってもかわらなかった。この方針にのっとって、2週間だけ仮放免してまたつかまえるという、魚釣りのキャッチ・アンド・リリースみたいなすさまじい蛮行が、現場ではおこなわれました。
Aさんの事件から、入管はある意味では教訓をえたといえばえたのです。ただし、それは、殺すところまで追い込んでしまったのはマズイということにすぎなかった。殺さない程度に痛めつけろという入管の考えが、この2週間仮放免と再収容のくり返しにはあらわれています。
改悪入管法成立後も連帯を
2020年以降、コロナの感染拡大で、被収容者数を減らすという入管の方針があり、これに応じて収容の長期化はある程度解消してはいます。しかし、さきに述べた人命軽視の方針が続いていることは、ウィシュマさんの事件からもあきらかです。
で、今回成立した改悪入管法。これは、いま述べてきたような送還強硬方針の延長線上にあるものです。この法律が成立してしまったということは、その以前からの送還強硬方針を入管が今後も続けていくのを後押しすることになると思います。そして、入管が送還を強硬にすすめていこうとしたときに、そのおもな方法は、収容です。仮放免者を再収容する、長期収容する、そうして痛めつけて、帰国を強要する、ということを今後ますます強化してくる可能性が高い。
しかし、今回の入管法改悪に反対する運動が大きく盛り上がり、たくさんの人が入管の差別や人権侵害の問題に関心をもち、さらに行動にうつすのを目にして、とても勇気づけられました。入管を包囲する私たちの連帯は、いままでになく強くなっていると思います。長期収容させない。再収容させない。送還させない。入管が「送還忌避者」と呼ぶ、送還を拒否せざるをえない人びとについて、難民認定審査の適正化と在留特別許可によって入管に在留資格を出させる。そのために知恵を出し合い、ともに力を合わせましょう。
《注》
*1: 会見の動画は、以下のページにリンクされている。
佐々木聖子・出入国在留管理庁長官 会見 | 日本記者クラブ JapanNationalPressClub (JNPC)
*2: 2010年7月27日、法務省入国管理局局長長「退去強制令書により収容する者の仮放免に関する検証等について(通達)」
*3: 2010年7月30日、法務省入国管理局「プレスリリース 退去強制令書により収容する者の仮放免に関する検証等について」
*4: 2015年9月18日「退去強制令書により収容する者の仮放免措置に係る運用と動静監視について(通達)」
*5: 2019年5月ごろから東日本入管センターで命がけのハンストを実行する被収容者が出てきたことについて、以下は仮放免者の会による記録。
長期収容への抗議を!(東日本入管でのハンストをめぐって)(2019年6月19日)
東日本入管センターでのハンスト、50日近くになる人も(2019年6月25日)
*6: 以下は、2週間仮放免と収容のくり返しについて、東日本および大村の入管センターに対する抗議の記録。
【抗議声明】入管による見せしめ・恫喝を目的とした再収容について(2019年7月29日)
東日本入管センターに抗議しました――仮放免2週間ののちの再収容について(2019年8月6日)
再収容および長期収容について抗議の申し入れ(8/21、東日本入管センターに)(2019年8月27日)
【抗議のよびかけ】人命をもてあそぶ入管による再々収容について(2019年10月29日)
10月30日 大村入管センターに抗議・申し入れ(被収容者死亡事件とハンスト者の再収容等について)(2019年11月5日)