大阪入管の常勤医師の件について、以下の毎日新聞報道をもとに考えたい。
医師が酒酔いで診察疑い 野党国会議員が大阪入管視察 | 毎日新聞(2023/6/3 16:16)
大阪出入国在留管理局(大阪入管、大阪市住之江区)で勤務する女性医師が酒に酔って診察した疑いがもたれている問題で、野党の国会議員ら6人が2日、大阪入管を視察した。同局は女性医師を1月20日に検査し、呼気から一定のアルコールを検出したことを議員らに明らかにした。1月中には出入国在留管理庁に、2月下旬には斎藤健法相に女性医師の問題が伝えられたが、入管法改正案の審議が続く国会には報告されなかった。
2月下旬には法務大臣が知っていたということなので、法務大臣および入管庁はこの問題を3か月以上にわたり隠蔽しながら入管法審議にあたっていたということになる。
2021年3月6日の名古屋入管でのウィシュマさん死亡事件を受け、入管庁は医療体制の強化に取り組むとしており、その成果のひとつとして自賛してきたのが常勤医の確保ということであった(下の画像参照。画像は出入国在留管理庁のウェブサイトで公開されている資料「改善策の取組状況」2003年4月より)。
その収容施設における医療体制の強化への取り組みは、今回の法案を成立させるための重要な前提のひとつでもあったはずだ。ところが、大阪入管では常勤医が確保できても「医療体制の強化」につながっていない。それどころか、新たに確保した常勤医が被収容者の生命・健康をおびやかしている。今回の酒酔い診察の件から明らかになったのは、そうした実態である。これを3か月以上にわたって隠しながら法案審議に対応していた法務大臣は、解任すべきだろう。
さて、この常勤医の問題は、酒に酔った状態で診療にあたっていたということにはとどまらない。上記記事よりもう1か所引用する。
議員らは入管訪問について報告後、関西で難民・外国人支援にかかわる団体と意見交換した。支援団体からは、昨年9月以降、収容中の複数の外国人から女性医師への不満が相次いでいたことが報告された。「不法滞在なんだから早く帰りなさい」などの暴言をはかれたり、不適切な薬を処方されて体調が悪化したりしたなどの訴えがあったという。
暴言や不適切な薬の処方は、酒酔い診療におとらず被収容者の生命・健康をおびやかしかねない深刻な問題であって、徹底的に実態調査し解明すべきものだ。それなしに法案の採決などありえない。
なお、入管医療においては、診察はかならず入管職員(入国警備官)が立ち会っておこなわれるという点が重要だ。つまり、診察時の医師の言動について、入管が「知らなかった」ということはありえない、ということである。
この点をふまえたうえで、上の毎日新聞記事にとりあげられている医者の暴言、「不法滞在なんだから早く帰りなさい」の意味を考えなければならない。これは、医療人としてあるまじき発言であって、送還を執行する入国警備官の発言かとみまがうような発言である。医療が送還業務と一体化しているのである。医師の独立性なんてまったくない。医療人が送還業務をになう入国警備官の道具たることをみずから買って出ているのだ。
そして、さらに重要なのは、医者がこういう発言をしても、診察に立ち会っている職員はこれを制止することはない、という点である。職員は「先生はそんなことをおっしゃらないでください。『不法滞在なんだから早く帰りなさい』と言うのはわれわれの任務であって、先生の仕事は医師として患者を診ることです」なんてことは、言わないのである。
入管職員がそんなこと言わないのは当たり前じゃないかと思われるかもしれない。でも、ここは大事なところである。医師の独立性が担保されておらず、医療が送還業務と一体化し、あるいはそこに従属しているという現状について、入管組織にはそれが問題だという認識がそもそもない。職員にもそのような教育はいっさいおこなわれない。だから、医者が「不法滞在なんだから早く帰りなさい」などと暴言をはいても、問題にならない。だって、組織としてそれが問題とすべき暴言なのだという認識がないわけだから。収容施設の医療なんて、自分たちの退去強制業務の道具だと、そう思っていていっさい疑わないわけ、入管組織の中の人たちは。
こんな医療の位置づけなのだから、死亡事件が起きるのはあたりまえだ。「不法滞在なんだから」うんぬんという医者の暴言を、「暴言」と認識できず、「問題」と気づくことすらなく、許容・容認してしまっている。そのような組織が運営する施設で医療が医療としての役目をはたせるわけがなく、そこでウィシュマさん事件のようなことがくりかえされるのは必然である。
この点でも、大阪入管常勤医の問題は、徹底的に調査・究明され、情報開示されるべきであって、それぬきに法案の審議、ひいては採決などありえないはずだ。
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