2023年6月9日

大阪入管現役職員の「激白」について

 


 MBS(毎日放送)がこんな記事を公開している。


【独自】大阪入管の現役職員が激白 入管法改正案は『どうでもいいかな。現場は何も変わらない』『命令には絶対服従』語る組織の実態は | 特集 | MBSニュース(23/06/08 17:30)


 動画では、職員(入国警備官)の肉声は加工されていないようだし、語っている内容をみても、まあ入管の仕込みとみてまちがいないだろう。大阪入管の常勤医師による酒酔い診察があきらかになり、入管施設の医療体制問題に批判がむけられているので、これに対する火消しのために職員にしゃべらせているということだろう。「お、内部告発か?」と一瞬だけ期待して損しちゃった。

 “酒酔い医師”など問題視されている大阪入管の医療体制についてはどう思うか聞かれて、職員氏、こう答えている。

「今はめちゃめちゃ昔と比べたら充実しているなと思います。私らが採用の頃はいませんでしたから、お医者さん。外に連れていくしかないんで。これは本庁からも通達が出ていまして『自分の判断はするな』と。『躊躇せずに救急車を呼びなさい』というお達しがありますので、そこは我々は割り切りますね。素人判断はしない」

 酒酔い医師のことで騒がれてるけど入管の医療体制はちゃんとしてるんですよというアピールをしているわけだが、現に医療ネグレクトによる死亡事故が頻繁に起きているという現実をもうすこしまじめにふまえたコメントをしてほしいものである。

 たしかに、この職員が言っているような通達は本庁から出されてはいる(以下、太字強調は引用者)。


 被収容者から体調不良の訴えがあった場合は、その内容を十分に聴取するとともに、体温測定や血圧測定により身体状況を的確に把握した上、診察の要否について医師等の判断を仰ぐ又は速やかに医師の診断を受けさせるなど病状に応じた適切な措置を講じること。時間帯により看守責任者等が当該被収容者への対応を判断せざるを得ない場合は、体温測定等の結果に異状が見られなくとも、安易に重篤な症状にはないと判断せず、ちゅうちょすることなく救急車の出動を要請すること

(2018年3月5日付、法務省入国管理局長指示「被収容者の健康状態及び動静把握の徹底について」)


 ちゅうちょせず救急車を呼べと書かれているけれど、これは2018年の通達である。この通達があっても、3年後の2021年3月に名古屋入管でウィシュマ・サンダマリさんは、あきらかに重篤な症状にあったにもかかわらず、救急車を呼ばれることなく見殺しにされた。この通達は結局はこの見殺し事件をふせげなかたのである。

 そんな通達の存在を示して、「今はめちゃめちゃ昔と比べたら[医療体制が]充実しているなと思います」とか、ふざけないでほしいと思う。なぜこの通達があってもウィシュマさんの死をふせげなかったのか、ということこそ、真剣に検討すべき課題でなないのか。

 それはたんに医療体制の問題なのか? 収容や送還をめぐる入管の政策・方針をも問わなければならないのではないのか?

 まあ、毎日放送のニュースで「激白」している現役職員氏を攻撃したいわけではない。このかたがしゃべってるのは、組織の考え方だからね。大阪入管はこういうふうに匿名の職員に語らせるのではなく、局長なりせめて首席警備官なりが堂々とカメラの前に出てきてしゃべれよな、と思いました。広報のしかたが姑息すぎる。


 ところで、入管施設の医療体制について「施設の医師に成り手がいないのが悩みだといいます」と問われたのに対する以下の職員氏の答え。これなんかも、まさしく入管の主張にそったものである。

「先生(医師)がこれちゃんとやりなさいと言ってもちゃんとやらない人とか、先生に悪態をつく人とか結構多いんで。先生も疲弊していく感じはみてとれます」

 医者がすぐにやめちゃってなかなか確保できないのは、患者(被収容者)のせいなんだって! 責任転嫁の屁理屈としか言いようがない。これもまさしく入管の考えであって、ウィシュマさん事件を機に法務大臣が設置した有識者会議による報告書「入管収容施設における医療体制の強化に関する提言」(2022年2月28日)がまさしくこの責任転嫁の姿勢で書かれている。つまり、医師の判断・指示に従わない被収容者や拒食や自傷行為をする被収容者がいるから、医師の確保がままならなくなっているのだと、そういうことを言っているのである。

 一方でこの報告書、被収容者や収容経験者に話を聞くなどして、なぜ被収容者が医師の判断・指示を信用できないのか、どうして医師・患者間の信頼関係がなかなかきずかれないのか、どういうわけで拒食や自傷行為をする人があとをたたないのか、といったことはまったく調べもせず、問いもしない。

 このあたりの問いというのは、まさしく入管の収容や送還をめぐる法制度や政策・方針が関係してくるもので、「医療体制」というところを考えるだけでは解くことができない問題である。


 ウィシュマさん事件は、入管施設の「医療体制」問題としてのみ見たのでは、まったく空虚な議論しかできませんよ、ということは、「入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合」のホームページで公開されている以下の声明で、批判されている。さきの有識者会議の報告書に対する批判である。



 「入管は被収容者の生命を尊重しようとしたが、医療体制が不十分だったためにウィシュマさんが亡くなった」のではない。被収容者の生命よりも収容・送還の執行を優先する方針のもとで、ウィシュマさんは「医療放置」「医療ネグレクト」によって見殺しにされたのである。こうした方針が改められることなく、「医療体制」が「強化」されたところで、ウィシュマさんのように入管の医療放置により命を落とす犠牲者は今後もなくなることはないであろう。
 ウィシュマさん事件は、決して「医療体制」の問題ではない。名古屋入管の現場職員の問題にもとどまりません。上記の方針のもとで退去強制業務をすすめてきた政府・与党および入管庁(旧法務省入国管理局)幹部の責任が問われるべき問題である。

「入管収容施設における医療体制の強化に関する提言」に対する見解


 今日参院本会議で採決されようとしている入管法改悪案は、まさにこのウィシュマさんを殺した「被収容者の生命よりも収容・送還の執行を優先する」入管の体制を温存し、さらにこれを強化するものである。成立、また施行させては絶対にいけない。


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