2024年1月21日

ヤフーニュースのコメント欄と入管と

 

 1か月以上前の報道ですが。


【茨城新聞】不法滞在31年 容疑で85歳の韓国人逮捕 茨城県警水戸署(2023年12月9日(土))

31年間にわたり茨城県内で不法滞在を続けていたとして、県警水戸署は8日、入管難民法違反(不法残留)の疑いで、韓国籍の水戸市、無職、女(85)を逮捕した。

逮捕容疑は、在留期限が1991年12月末だったにもかかわらず、更新や変更を受けないまま、不法に残留した疑い。同署によると、容疑を認めている。同署員が8日、同市内で職務質問して発覚した。


 このかた、日本での暮らしがすくなくとも31年以上ということで、しかも在留期間が切れてからはおそらく一度も日本から出ていないのでしょうから、いまさら韓国に帰れと言われても相当にこまるのではないかなと想像します。

 上にリンクしたのは、茨城新聞のサイトなのですけれど、同じ記事は「Yahoo!ニュース」にも掲載されており、いつものごとく差別・排外主義にまみれたコメントがたくさんついています。「Yahoo!ニュース」については、私は前にこちらのブログ記事にも書いたとおり、リンクを貼らないことにしているので今回もリンクはしませんが、まあひどいものです。強制送還しろとのコメントがいくつもならんでいます。

 それらのコメントに共通するのは、自身の排外主義的な主張の盾(たて)として「法」を語っているというところです。日本は「法治国家」であるとか、「法は曲げられない」だとか、「不法」行為をおかした本人のせいなのだとか、いわば「法」を言い訳にするかたちで、強制送還すべき、あるいは強制送還するしかないのだというのです。

 また、こうした強制送還すべきと主張する言説の多くは、自身の主張を「法」に根拠を置く、いわば理性的なものと自負しているらしい一方で、自分と反対の立場の主張は「かわいそう」といった同情にもとづく感情論と決めつけているのが特徴的です。「強制送還に反対する者はかわいそうだなどと言うが、情で道理を曲げるわけにはいかない。日本は法治国家なのだから、不法滞在者は法を厳格に適用して強制送還すべきである」というわけです。

 なんだか、こういう「情」というものの価値を低くみたうえで、これに流されずに道理を通す理性的なオレ、みたいな自意識は、イヤなものです。こういう人間にはなりたくないなあ、ならないように気をつけよう、と思います。

 さて、Yahoo!ニュースのコメント欄やツイッターなどで排外主義言説をまきちらす右翼たちは、しばしば「不法滞在者は強制送還するのが法の正しい適用」「不法滞在者の在留を認めるのは法を曲げること」という前提で語ります。しかし、この認識は、入管法の理解としてもだいぶずれており、まちがっているように思います。

 現行の入管法では、たしかにいわゆる「不法残留」などを退去強制事由として規定しています。しかし、本人が在留を希望した場合、法務大臣がこの人の在留を特別に許可するかどうかの判断をしなければならないということも手続き上さだめられています。さきの報道の水戸市の女性についても、入管局の審査において不法残留であるとの認定がなされたとしても、本人が希望すれば、「違反」の事実以外の要素もふくめたもろもろの状況をみて在留特別許可をするかどうかの判断が、手続き上一応はなされるはずです。

 つまり、現行入管法においてさえも、いわゆる「不法滞在者」(クソな言葉だわ)を、必ずすべて送還しなければならない、あるいは送還できるという前提には立っていません。人道的にみて送還すべきではないということもあると想定されているからこそ、在留特別許可という措置が用意されているのでしょう。

 その意味で、「不法滞在」「不法残留」「不法入国」といった言葉をみると、「日本は法治国家だ!」「強制送還すべきだ!」となどとYahoo!ニュースのコメント欄などに書きこまずにはいられない右翼諸氏の主張は、本人たちがおそらく自己認識としていだいているようなイメージとは、正反対のものだということです。つまり、この人たちは、感情論とは対極にある冷静で理知的な議論を法の正しい理解にもとづいておこなっているつもりらしいのですが、実際のところは排外主義的な俗情をたれながしているにすぎない。

 しかし、いっそう深刻なのは、行政機関たる入管の役人たちの思考も、こういう右翼たちのそれとへだたってるとは思えないことです。たとえば、先日このブログで言及した*1つぎの事例などをみたときに。


「うれしいし驚きも」タイ人の母親のもとで日本で生まれた高校生と中学生の姉弟に在留特別許可 これまでは在留資格なく「仮放免」 | SBC NEWS | 長野のニュース | SBC信越放送(2023年12月26日(火) 12:09)


 報道されている在留の認められたきょうだいは、17歳と15歳です。このケースについて、入管は17年ものあいだ、日本生まれの未成年者を在留資格のないまま、また強制送還の対象としたまま、放置してきたわけです。人道上の配慮として在留を許可するという措置があるにもかかわらず、その措置をとらないという不作為を入管は17年間続けてきたのです。

 この不作為は、法にのっとった結果であるとか、あるいは現行制度のせいであるとか、のみ言うことはできません。在留を認めるという措置が可能でありながら、その措置を17年間にわたりとらなかったという入管の選択の結果なのです。それは「法」の必然的な帰結ではなく、それを選択した意思の帰結です。

 そして、今回、このきょうだいが在留を認められたのは、昨年8月に法務大臣が発表した特例的な政府方針、在留が長期化した子どもに対して、家族一体として在留特別許可をするという方針にもとづくものです。ところが、この長野県の家族のケースでは、在留が認められたのは子どもたちだけで、母親はまだ認められていません。「家族一体として」という方針を打ち出しながら、親子を分離するような措置をおこなっている。

 この入管の役人たちの不作為という選択から感じられる、暗い情念はいったい何なのでしょうか。それは、Yahoo!ニュースに排外主義的なコメントを書きこんでいる者たちの主張と、入管のとっている行動は、そうへだたっていないどころか、ぴったりと重なっているようにみえます。

 注でリンクした記事でも紹介しましたが、未成年の仮放免者とその家族に在留特別許可をせよと求める署名が呼びかけられています。署名は現在もひきつづき募集中です。


オンライン署名 ・ 日本に生まれ育った未成年の仮放免者とその家族に在留特別許可を! ・ Change.org




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