2023年12月30日

未成年仮放免者への在留特別許可について 特例措置を「特例」たらしめているもの


  日本の入管体制は、いわば「あべこべな世界」とでも言うべきものです。そこでは、「異常」としか言いようのないことがらが「普通のこと」としてまかりとおっている。「当たり前」のようにおこなわれていることは、ことごとく「おかしい」。そういう世界です。

 入管に関するニュースに接するとき、私たちはそこで報じられた出来事が「ニュース」、すなわち新奇な出来事として報じられるということの異常さに、しばしばめまいのような感覚をいだくことになるのです。報じられた出来事そのものに驚くというよりも、そこに「めずらしい」「特異な」「異例な」出来事であるという意味を与えている文脈のほうにこそ、驚かされることになります。

 たとえば、つぎのようなニュースに接したときに。


「うれしいし驚きも」タイ人の母親のもとで日本で生まれた高校生と中学生の姉弟に在留特別許可 これまでは在留資格なく「仮放免」 | SBC NEWS | 長野のニュース | SBC信越放送(2023年12月26日(火) 12:09)


 ここで報じられているのは、高校生・中学生の姉弟が在留資格を得たという事実です。しかし、そもそもこの事実にニュースとして報じるべき価値・意味を与えている文脈は何なのかということにこそ、着目しなければならないように思います。

 それは、日本生まれの人が、高校生・中学生の年齢にまでなりながら、在留資格をえられず、退去強制処分の対象になっていたということ、またそういうことが起こりうるのだということです。これは、法制度そのもの、あるいはこれまでの入管政策そのものに根本的な欠陥があるというほかない事態です。

 ところで、この姉弟への在留特別許可は、上の記事でも少しふれられていますが、今年8月に発表された政府方針にもとづくものです。入管法の改定法の可決・成立(6月)を受けて、8月4日、法務大臣は、在留が長期化した子どもに対して、家族一体として在留特別許可をし在留資格を与える方向で検討するとの政府方針を発表しました*1

 以下の画像は、その法務大臣会見の資料です。

2023.8.4法務大臣記者会見資料

入管法改定法の施行までに「今回限り」のいわば特例措置として
・日本で出生して
・小学校、中学校又は高校で教育を受けており、
・引き続き本邦で生活をしていくことを真に希望している
子どもとその家族
を対象として在留資格の付与を検討するとのことです。
 ただし、「親に看過し難い消極事情がある場合」は除外するとのこと。


 ここでもやはり問うべきなのは、そもそもこの特例措置を「特例」たらしめている文脈が何なのかということです。日本生まれの学齢期の子どもたちが、在留資格を与えられずにいわば送還対象とされた状態で、200人以上もこんにちまで放置されてきたわけです。これは、入管政策の不作為によるものにほかなりません。

 いま「特例」として在留特別許可をするかどうか入管は検討するのだといっているのですけれども、そもそも、その検討の対象となっている200人あまりの子どもたちにいまのいままで在留特別許可を「しない」という方針をとってきたのが入管です。親が超過滞在だったり非正規入国した経緯があったりということで、その子も在留の資格を認めないまま放置してきた。この、あきらかにおかしな従来の入管の方針が、今回の特例措置を「特例」たらしめているのです。常態がめちゃくちゃに異常なので、日本生まれの学齢期の子どもの在留は正規化しましょう、その子が日本で暮らしていくにあたって家族分離が生じないよう家族一体で正規化しましょうという、ごくごく当たり前の措置が「特例」としてなされることになるのです。

 さて、さきの姉弟のケースでは、「2人の母親は過去に非正規入国した経緯があ」るということで、今回の措置では在留特別許可がなされなかったということです。

 上の画像の法務大臣の会見資料でも、「親に看過し難い消極事情がある場合」は今回の措置の対象から除外するとし、その「看過し難い消極事情」の例として「不法入国・不法上陸」をあげています。

 この件にかかわらず、入管は、同じ入管法違反でも、超過滞在(入管の呼ぶところの「不法残留」)とくらべて非正規入国(入管用語で言う「不法入国・不法上陸」)をかなり重くみる方針をとっています。しかし、入管がこうしてとっている方針について、それが妥当なのかどうか、市民の側からも批判・検討されるべきではないかと思います。

 今回報道されている東京入管の措置は、姉弟に在留資格を認める一方でその母親には認めない(依然、退去強制処分が取り消されていない状態に置く)というものですから、家族をバラバラに引き裂くものです。子どもたちの在留は認めてやるが、母親は日本から出て行けと。ひどいものです。たんに(とあえて言いますけども)入国のさいに入管法に規定された手続きにのっとらなかったというだけのことで、国家がその権力を使って家族をバラバラにするような措置をとるのが許されるのでしょうか。私にはとうていそうは思えません。

 未成年の仮放免者とその家族に在留特別許可をせよという署名が呼びかけられています。オンラインでも署名できます。


オンライン署名 ・ 日本に生まれ育った未成年の仮放免者とその家族に在留特別許可を! ・ Change.org


 入管法改悪法の可決・成立に先立つ23年5月4日に始まった署名募集ですが、いまも募集は続いているので、よかったらぜひ署名や情報拡散をお願いします。



*1: 法務省:法務大臣臨時記者会見の概要(2023年8月4日(金))および画像の会見資料「送還忌避者のうち本邦で出生した子どもの在留特別許可に関する対応方針について」(出入国在留管理庁)参照。

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