2021年12月5日

日本社会の問題として考える――入管の人権侵害(その3)


【ふりがなを つける】(powered by ひらがなめがね)



日本社会の問題として考える――入管の人権侵害(その1)(その2)からのつづき


増加していく仮放免者


 【資料6】(退令仮放免者数の推移)をみながら話します。


【資料6】


 2010年のハンストなどがあって、長期収容はいっときだいぶ緩和されました。そのあとも紆余曲折もありながら、仮放免者が再収容されるということも減りました。これも当事者の闘いによるものです。10年3月に成田でガーナ人が亡くなった事件があったあとに、力づくでの送還が中止されたということもあります。そういうことがあって、2010年から退令仮放免者が増加していきます。


 で、ここが今日いちばんお話したいポイントのひとつなんですけど、どうしてこういうことが起きるのかということです。入管が仮放免許可を出すということは、いったんはその人を送還することを断念したということです。そういうケースがこの時期に2015年まで大きく増えていく。なぜかということです。


 さっき言ったように、退去強制処分が出て、しかし退去を拒否している人というのは、処分が出た人全体からみて、ごく少数、例外中の例外なんです。長期収容にたえぬいて、それでも帰らない、で、仮放免で出てくるというのはなおさらです。そういう人はよほどの事情、帰れない事情があるんです。難民もそうだし、家族が日本にいる人、日本での生活が長くなったという人もそうです。帰るに帰れないんです。そうでなかったら、仮放免になるまでたえられないです。


 そういう仮放免者などが増えるのは、入管は本人たちが悪いのだと言ってます。入管は、仮放免者など退去強制処分が出ているけれどこれをこばんでいる人を「送還忌避者」と呼んでいます。「送還忌避」する人がいっぱいいて、それが問題だと言ってます。


 私は、それは責任転稼もいいとこだと思います。入管が生み出してるんです、「送還忌避者」を。



入管が「送還忌避者」を生み出している


 ひとつには、難民認定。今日はじめてこの話をしますが、難民として認定する人数も率も少なすぎるんです。このあたりのことは、ネットなど調べるのも簡単なので、あまり話しませんけど、たとえば、2019年の認定数が44人、認定率が0.4%です。ヨーロッパの先進国がそれぞれ何万人単位で認定している、パーセンテージでも何十パーセントという単位です。むこうが「割」なのに対して、「厘」ですからね日本は。少ないにしても少なすぎる。難民を認定して保護することをろくにせずに、ばんばん退去強制処分を出したら、入管の言うところの「送還忌避者」になっていくのは当たり前でしょう。


 もうひとつは、非正規滞在者に在留資格を出してこれを正規化するということを十分にやってこなかったことです。入管の言葉でいえば「送還忌避者」なり「不法滞在者」なりを減らす方法は、送還だけではないわけです。在留特別許可(在特)という措置が現行法でもあります。


 さきほどお話したように、2003年からの5か年計画では、法務省は半減計画の半分をこの在特で達成しました。でも在特で正規化されたのはおもに日本人の配偶者がいる人。その線引きから外れた人は取り残されました。その後、在特の基準は厳格化されて、日本人や永住者の配偶者がいても夫婦の間に実子ができないと許可が出ないようになってます。入管の、あるいは日本政府の都合で恣意的な線引きをして、ごくごくせまい範囲でしか在留の正規化に取り組んでこなかった。そのことが、入管のいう「送還忌避者」というかたちで現在まで積み重なってきたのです。


 いま仮放免状態にある人で、退去強制処分を受けてから最長の人で20年ぐらいという人が何人かいるらしいです。10年こえてる人はたくさんいます。ぜんぜんめずらしくない。そういう人は10年以上のあいだ、仮放免という無権利状態におかれていたり、その間、2回、3回と収容されたりしています。こうした長く日本で暮らしてきた人たちがその在留が非正規状態のまま放置されてる。さらに新たに入国してくる人のなかにも、やはり自国に帰れない事情のある人はいるわけですから、「送還忌避者」としてどんどん新たに積み重なっていく。



ふたたび強硬方針にかじを切った入管


 この2010年以降の仮放免者が増えていく過程というのは、結婚していない人もふくめて、とくに日本在留が長くなっている人から、この仮放免者たちを正規化していくよい機会だったと思います。ところが、政府は2015年にその反対の方向にかじをきりました。「送還忌避者」を送還によって減らすのだというやり方に固執して、仮放免者を再収容していく方向にかじをきったのです。


 上の【資料6】のグラフをもう一度みてください。仮放免者数が15年をピークに減り始めてますね。これは仮放免者をどんどん再収容したことによるものです。


 2015年9月 法務省入管局長が「退去強制令書により収容する者の仮放免措置に係る運用と動静監視について」という通達を地方入管局長らにむけて出します。この通達には2つ要点があります。簡単に言うと、仮放免者の再収容をすすめよということが1点、それと2点目に、仮放免の許可の判断を厳しくせよということを言ってます。


 この通達が出たことを契機に、全国の入管施設で仮放免許可が出なくなってきて、収容が長期化する、それと仮放免されていた人がどんどん再収容されていくということがおこってきたのです。同時に、在留特別許可の基準がやはり2015年ごろから厳しくなっています。「送還忌避者」を減らすというときに、送還だけでなく、在特による正規化という方法もあるのですけど、この時期から送還一本やりで減らそう、そのために再収容・長期収容でどんどん帰国に追い込むのだという方針をとったということです。


 そのあとに起こったことは、いろいろ報道もされるようになったので、ご存じのかたも多いかと思います。あまりにひどい事件・事例があげればきりがないほどあるのですが、今日はそうなった歴史的な経緯のほうを重点的に話したかったので、2015年以降の事例についてはひとつひとつあげることはしません。入管の施設でこの間、収容中の死亡事件がどれだけ起こっているのかということだけ、以下に示しておきます。


2015年9月 法務省入管局長「退去強制令書により収容する者の仮放免措置に係る運用と動静監視について(通達)」

2017年3月 ベトナム人被収容者死亡(東日本入管センター)。

2018年4月 インド人被収容者自殺(東日本入管センター)。

2018年11月 中国人被収容者死亡(福岡入管)

2018年12月 入管法改定。在留資格「特定技能」の新設、出入国在留管理庁の設置など。外国人労働者の受け入れ拡大へ。

2019年6月 ナイジェリア人被収容者がハンストのすえ餓死(大村入管センター)。

2020年5月1日 入管庁「入管施設における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」(入管施設感染防止タスクフォース)

2020年10月 インドネシア人被収容者死亡(名古屋入管)

2021年2月 政府が入管法改定案を国家に提出。4月に参院で審議入り。政府が法案を取り下げ、廃案に。

2021年3月 スリランカ人被収容者死亡(名古屋入管)


 ここに収容施設での死亡事件をあげていますけど、これだけあるんです。その背後に、長期収容で体をこわしたり、ろくに医療を受けられずに死にかけたり、職員から集団を暴行を受けたり、という悲惨な事例、いちじるしい人権侵害が数えきれないほどあります。


 収容長期化の状況は、昨年、コロナの感染拡大を受けて仮放免許可をいっぱい出して、全体としては緩和しました。それでもいまだ長期収容に苦しんでいる人はいて、大阪入管にもなんと収容期間が7年をこえた人がいます。また、仮放免されても、健康保険に入れない、社会保障から排除されている、就労もできないなど、無権利状態です。コロナ禍で仮放免者の生活の困窮も深刻化しています。




3.まとめ


 話をまとめます。


 80年代後半のバブル期以降はとくに、日本にはさまざまな国籍のたくさんの外国人が暮らすようになってきたのですけど、それは日本社会がその人たちを労働力などとして必要とし、呼びこんできた結果であるわけです。そうして国境をこえて日本にやって来る人たちについて、これまでの日本の政策、それは入管政策に限らないことですが、2つの点をちゃんと想定してこなかったのだと思っています。


 ひとつは、日本にやって来る人の一定数は、日本社会に定住することになるということです。もちろん、出稼ぎのつもりで来る人もいます。しかし、何年か日本で働いて、お金かせいでから帰るというそういうつもりの人のなかに、一部であっても、ここに定着し、人間関係や生活基盤ができてくる人たちがでてくるのは避けられないのです。労働力ほしさで呼びこんでおいて、あとで違反があっただのなんだの言って追い返すという、そんな身勝手なあり方でいいんですか、ということ。そういう観点から入管政策を見直す必要があると思います。


 もうひとつは、難民について。難民が日本に来るのは、日本の国が国境を開いているからです。国境を開いているというのは、日本が一応は難民条約に入ってて難民を受け入れますよと言っている(実際はほとんど受け入れていないのですけど)ということだけではありません。


 労働力めあてで外国人を呼びこんでるでしょう。今日お話したようなかたちのほかにも、技能実習生や留学生の「受け入れ」の拡大だって、労働者がほしくてそういう利害関係のある人や団体が政治にはたらきかけて政策が決定されてるところはあるでしょう。さまざまなかたちで日本が外国人を呼びこんできたわけで、そのなかには出身国での迫害をのがれてきた人は当然ながら一定数いるんです。だって、危険だから逃げようという人からしたら、行き先はかならずしも選べないのであって、行けるところ、入国できそうなところにとりあえず行こうとするでしょう。


 ところが、入管なんかは、「あなた働きに来たんでしょ、だったら難民じゃないでしょ」とそういう予断・偏見をもってみている。そこには、アジアやアフリカから来て建設現場とか飲食店とかコンビニとかで働いている人たちへの蔑視もあるんじゃないですか。そういう "外国人は日本側の都合で入れたり排除したりしてもよい、そういう権利が自分たちにはあるんだ" という思い込みというか、思い上がりがある。入管職員だけじゃないでしょうけどね。しかし、入管という組織はそういう考えで動いてきたところです。そうやって労働行政の下請けをやってきた。


 で、難民認定率が異常に低いのはなぜなのかということは、いろんな説明ができるだろうし、なされてもいるのでしょうけど、根本のところは外国人労働力の導入と排除をになう組織が、難民認定という仕事もやっているというところに問題があるのだと思っています。


 最後に。変な図を書きましたけど。「入管行政の規定要因」という図です。



 入管行政は、さまざまな利害関係を反映して動いているのだということは言えるでしょう。ひとつは、人手不足で外国人労働者がほしいという業界の働きかけ・圧力がたえずあるはず。他方で、反対に、外国人を入れたくない、排除したいという勢力も入管行政に影響を与えている。右翼なんかももちろん排外主義的な、外国人を排除せよというような主張をするわけですけど、法務省の官僚なんかは極端な右翼と似たり寄ったりの思想の連中がごろごろいるんでしょ。その人たちがどういう利害関係を反映してるのかよくわかりません。ともかく、もっと呼び込めという圧力と、排除しろという圧力の両方が同時にかかっている。そのなかで状況に応じて、東によったり西によったりしながら、外国人を入れたり排除したりということをおこなっているのが入管の業務ということだと考えています。


 ただ、それでいいのかということを問いたいと思います。外国人をたんに労働力という手段としてのみみて、その「必要性」に応じて入れたり排除したりをもっぱら日本側の都合でおこなう。そういうことだけで入管行政が動くということでいいのか。そんなきみらの都合だけで決められたら困るよということで、入管に収容された人、仮放免されてる人は、すでに抵抗・闘争をしてきたということがありあます。さっきお話をしてくれたAさんにしても、そうしてここにいるわけです。よくぞ、収容所から生きて出てきてくれたと思います。


 図に書いたのですけど、日本の市民社会というか、世論というか、私たちも、入管行政を規定していく要因として、もっとちゃんとやっていかなければならないのではないかということです。きみらの勝手な都合で私たちの仲間を収容とか送還とかしないでくれ、と。きみらが勝手な都合で在留資格を出さないせいで、私たちの仲間は健康保険にも入れないではないか、いいかげんにしろよ、と。そうやって、入管行政に働きかける規定要因というか、プレーヤーとしていっしょに参加していきましょう、という、漠然としてますけど呼びかけをして、お話を終わりたいと思います。(了)


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