2023年3月4日

「職権を濫用してはいけない」という話が通用しない世界――在留カードの「常時携帯義務」をめぐって


 入管施設に面会に来た外国籍の人が、在留カードを自宅に忘れてきたために面会できずに困っているという場面に出くわすことが、よくある。

 収容されている人に面会するためには、面会受付で身分証を提示しなければならない。面会者が日本国籍者の場合は、運転免許証や健康保険証などを提示すればよいことになっている。ところが、外国籍の人の場合、これらは身分証として認められない。在留カード・特別永住者証明書・パスポート・仮放免許可書のいずれかを提示しなければならないのだ。

 おかしな話だ。とてもおかしな話なので、入管の職員に「これはおかしいんじゃないですか」と話をしたことが何度かある。「なんのために身分証を提示させるんですか」と聞くと、「本人確認のためです」と答える。「本人確認だったら、運転免許証で十分じゃないですか? なんで在留カードじゃないとダメなの?」と聞くと、「在留カードは常時携帯と提示が義務づけられています」と言う。

 つまり、入管職員が言うのは、外国人は在留カードをつねに身につけていなければならず、入国警備官・入国審査官や警察官が求めたらこれを提示して見せる義務が法律(入管法)で課されているのだ、ということだ。だから、外国人が在留カードをちゃんと携帯しているかどうか、入管職員としてその提示を求めて確認するのは当然なのだということなのだろう。私が「じゃあ不携帯は不携帯で本人に『つぎからは気をつけてください』と注意して、今回は免許証で本人確認して面会させてあげればいいんじゃないですか?」と言うと、「不携帯は違法なんです。違法を見逃せというんですか?」と返してきた職員もかつていた。10年ちかく前の話だけど。


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 そもそもの話をすれば、入管法で規定されているこの常時携帯義務というのが、めちゃくちゃひどいシロモノである。国家が住民を管理するためのタグをつねに身につけてろと要求するのは人間あつかいじゃないし、それを外国人住民のみに義務づけているのは、とりたてて外国籍者を犯罪者予備軍とみなす差別的なあつかいでもある。

 ただ、そもそも法律がおかしいという話を入管の職員にしてもしょうがないので、公務員が法で与えらえた権限を行使するのは、職務上の必要性が認められるときに限られるべきでしょうという話をしたことはある。入国警備官であれ警察官であれ、職務上において必要だと認められる理由もなしに意のままに在留カードの提示を求めてよい、なんてことが許されるわけがない。公務員として法にもとづいて権限を行使する以上、その権限の行使が「なんのためになされるのか?」ということは問われうるのだし、問われたなら公務員はそれを説得的に説明する義務がある。

 入管職員が在留カードの提示を求めて、その理由の説明が「常時携帯義務があるから」では話にならない。そんな話が通用するなら、職員はいついかなるときでも外国人相手とみたら「あなたが法律で課された常時携帯義務を守っているか確認する必要があるので、在留カードを見せてください」と命じてよいことになる。これじゃあ、「職権濫用」という概念は消滅したのと同じことだ。これはめちゃくちゃおかしいことですよね。

 でも、入管職員の多くはこれをおかしいとは思わないだろうことも、いろんな職員と接してきた経験上わかっている。その、おかしいと思わないことがかなりおかしいんだよ、ということを言いたくて、この文章を書きました。



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